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【社会に出る学生のための人権入門】(第2回)人権とは? 自己人生コントロール権 ~経済格差と教育格差~(2017/10/11)


 連載第1回をふまえてアメリカ合衆国を事例に教育と経済について述べていきたい。一例であるが、行財政の厳しいアメリカの公教育から体育、音楽、美術の授業が消えつつあるという事態が進行している。これらの授業をなくすと教員の人件費を削減することができるからである。日本ではにわかに信じがたいが実際に起こっている。これらの地域には貧しい層だけが残り、中流以上の白人層が離れていく。これらの現象は「ホワイトフライト(白人の逃亡)」と呼ばれている。

 逆に公教育の充実した土地は地価が高く豊かな人が居住する。学校毎に公表される英語の統一テストの結果が、その土地の価格に影響を与え、居住階層と教育レベル、地価が明確にリンクされている。その結果、1990年代からのアメリカ社会の格差拡大の進行が、裕福な層と貧しい層の棲み分けを助長しているのである。低所得者が住み始めると土地の値段が下がり、教育レベルもさらに下がるという構図が出来上がっている。

 一方、裕福な層は教育にかなりの金をかけ、経済力を得るためのチケットを買っていく。

 マンハッタンにある「名門」幼稚園は競争率20倍にも達している。これらの幼稚園はほとんどのところで一貫教育制度をとっており、高校までは無試験で進学でき、卒業生はハーバード大学をはじめとする「名門トップ大学」に進学していく。これらの一つである幼稚園の年間授業料は、日本円に換算して200万円前後である。保護者が高校までの13年間に支払う授業料及び諸経費は約4000万円になる。

 アメリカの場合、クウォータ制度という割り当て制度が導入されているため、成績が良くても必ず入れるとは限らない。レガシー(家族が卒業生)、寄付を行った人、マイノリティーが優位になるが、それでも上記の多額の授業料等を負担する経済力が求められる。

さらに子どもの知能テストと面接テストだけでなく、親にも作文と面接のテストが課せられるところも多い。どちらにしても貧しい層が行けないのは確かである。それらの教育事情が次世代の経済、文化、人間関係、自尊感情等と密接に結びつき、差別の再生産構造として機能している。日本でもアメリカほどではないが、所得水準と教育水準は明確にリンクしている。それが就職格差にも結びついている。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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