実はここ数年、人事の世界では人による面接の精度が問われている。学術研究や企業の実践結果を見ると、インターンシップのように実際に仕事をやらせてみる方法や仕事に関する知識試験、適性検査など、他の選考方法よりも面接による評価の妥当性が低いと出ることが多いからだ。そのため、各社様々な試行錯誤をしている。
特に能力や性格の適性検査を重視する企業が増えている。人手がいらず実施が容易、結果が数字で出て合否を決めやすいなどの理由もさることながら、その精度が高いからだ。
まず、自社の社員に適性検査を実施して、高業績者、低業績者、早期退職者などの特徴を事業や職種ごとに抽出する。そうして作られた基準で合否を決めれば、入社後に活躍する可能性の高い人を採用でき、配属にも生かせるというわけである。
データが蓄積されるほど精度は上がるため、導入が進んだ企業では、離職率の大幅な低下や生産性の向上につながる事例も多く、各社のデータ重視採用の導入熱に拍車をかけている。
データの収集方法も、従来の「あてはまる・あてはまらない」などで答える質問手法のみならず、多様化が進んでいる。採用のオンライン化に伴い、声色や表情などの情報収集や、発言内容の文字起こしなどが容易になり、分析の対象になっている。これらのデータを人工知能(AI)にインプットして学習させ、そこから能力や性格を推測するサービスも既に導入されている。
人が人を評価するのではなく、データ分析やAIによって評価がなされるというある意味恐ろしい時代である。ただ、面接よりデータでの評価の方が入社後の活躍との相関が高く、業績も向上するのだから活用しない手はない。短期的にはデータ選考導入・非導入企業間では結果に大きな差が出るであろう。
しかし、もちろん落とし穴もある。それは「今、活躍している人」からしか選考基準が作れないことだ。今いる人が本当にベストかはわからない。違うタイプでも活躍できるかもしれない。内定は出したが他社に逃げられた人や、不合格でも本当は活躍したかもしれない人のこともわからない。また、「今」の環境がずっと続くかどうかもわからない。事業環境が変われば活躍できる人のタイプも変わる。「今」に過剰に最適化してしまっては、大きな変化が生じた際、一気に不適応組織に成り下がってしまうリスクもあるのだ。
面接は精度は低いかもしれないが、その曖昧さで結果的に「良い偶然」が起こる可能性がある。ドラフト4位のイチローさんも歴史に残る名選手となった。「良さそうな人」を推測するだけでなく、「この人を良い人材に育てたい」という人の意思も採用には重要な要素だ。結局、人とデータ、双方の特徴を生かしながら、適材発掘をしなければならないのだ。
(人材研究所代表)