大学で履歴書の書き方を教える講義をしたところ、学生からこういう質問があった。
「私はとてもではないけれど、この1枚の履歴書を手書きでミスなく、修正液を使わずにすべて書き上げる自信がありません」と言うのだ。履歴書を、鉛筆ではなくペンで書くように指導したら、そう訴えてきた。
確かに、手書きでミスなく書き上げるのは大変なことだ。ゆうに1時間はかかるだろう。途中でミスがあれば、また新しいものに書き直すとなると、1時間どころではないかもしれない。パソコン入力の方がどれだけ楽か。
このため最近は、転職の履歴書に関してはパソコン入力が多くなっており、そのままメールで添付して送ることが増えてきている。
ところが大学生の就活に使う履歴書は大学名とマーク入りの物を使用するのが正式とされている。大学の購買部で販売しており、大学名入りというところが重みを感じる。
私の講義では、企業に対してアピール力のある内容を書けるように指導をしているつもりだが、手書きというところに大きな負担を感じる学生が出てきているのだ。
それは大人の私たちも同様かもしれない。手書きの機会はめっきり減ってきた。いざ手紙を書こうとすると漢字を忘れていることに気づくし、字が下手になったと思うこともある。長年手書きをしてきた私たちでさえそうなのだから、学生にとってはそれ以上に高いハードルに感じるのかもしれない。
ではなぜ履歴書は手書きなのか。それは社会に出てから必要なリテラシーだからではないだろうか。いくらIT(情報技術)時代といっても、仕事上、手書きが全くなくなることはしばらくなさそうだからだ。
銀行の窓口の帳票、何かの申込書など、手書きのものはそうそうなくならない。正確に文字を書くことは、仕事上でのスキルとして必要になる。履歴書もその練習の一つと考えるのが妥当だろう。大学指定の履歴書も電子化が進むかもしれないが、あと数年は手書きが続くだろう。
また、手書きというのはなんとなく人柄なども出て、パソコンの文字とは違う味わいがある。以前、派遣会社の人に「文字がきれいな人の方が派遣先が早く決まる」と聞いたことがある。
文字の美しさと内定率の相関関係について統計があるわけではないが、履歴書を正確に美しく書き上げることも学生にとっての学修すべき一つなのだと思う。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/