採用選考に少しでも関われば、「コンピテンシー」という言葉は避けて通ることができない。これが人事の間で話題になりだして、かれこれ20年になるだろう。
そのため、最近では大学の就職課スタッフやキャリア課程の教員にもすっかり浸透している。まれに、就活生までこの言葉を使う。
ただし、この言葉の真意を正しく理解している人は少ない。これが何なのか、詳しく説明することにしたい。
コンピテンシーとは、行動特性と訳されることが多いが、本質は、好業績を上げる人たちが有する能力を指す。アメリカの研究者、マクレランドにより提唱された概念だ。
それは、会社や仕事によって異なるものが多いが、中には、あまねくどの職務でも必要となるようなものもある。
具体的には、統率力、企画提案力、説明力、指導育成力、忍耐力などそれらしき力は多々挙げられる。ただし、それらの多くは、色々な要素が積み重なって発揮される力であり、簡単に適性検査で測ることはできない。
たとえば、きわめて企画提案力がある営業スタッフが2人いたとしよう。その一人の方は、記憶力や分析力に富み、経験や学習によりためこんだ事例を分解して、その場の状況に応じてそれらの要素を組み合わせることで企画提案ができている。
一方、もう一人は発想力に富み、泉のように企画が湧き出る半面、強い内省性を有するため、矛盾やうわべだけの見解を瞬時に排除でき、その結果、どこでも即興で良き提案ができる。
同じ「スーパーな企画提案力」を持つ2人でも、その内部構造は全く異なることがこの事例でわかるだろう。
知力や性格因子、経験、知識など様々な基礎要素が複雑に絡み合うため、適性検査的なものでは察知が難しく、そのため、面接でじっくりとくみ取っていくしかない。
ただ、それでも過去、華々しいコンピテンシーを有した人が、業界や会社が異なると、その力が生かせないということもよく起こる。
たとえば、アメリカンフットボールのクオーターバック(QB)は、統率力、状況把握力、判断力が重要なコンピテンシーとなる。それは、野球の捕手に必要なコンピテンシーとほぼ同じ、といえるだろう。
だが、アメフトの名QBを野球の捕手にコンバートしてうまくいくだろうか? それは無理だ。往々にして、競技の壁を越えたらコンピテンシーはついえてしまうからだ。
(雇用ジャーナリスト)