就活において、企業は社員を採用するときに、たった2つのことしか見ていない。
その2つとは「わが社の仕事をうまくやっていけるか」と「わが社の仲間とうまくやっていけるか」だ。
企業は社員を1人雇えば、その人の定年までに何億円ものお金を払うことになる。
雇った社員が会社に入って仕事ができなかったり、仲間とうまくいかなかったりすれば、それはそのまま企業の大損失につながる。だからその2点を見ているのだ。
2つのこととは、すなわち「相性」という言葉に置き換えることができるだろう。
たとえば、ここに2つの会社がある。一つ目のX社は「能書きを垂れるのではなくとにかく動け」という社風だ。もう一つのY社は「考えてから動け。やみくもに動くな」とまったく逆の社風である。こんな違いは会社によってままあるだろう。
就活生のA君は運動部出身。文字を読んだり物事を深く考えたりするのが嫌いだ。その彼がX社に入ったら、それこそ「天国」と感じるだろう。
ところがY社に入ったら、A君は半ば「地獄」と感じるかもしれない。これが相性というものだ。
大企業は数万人の応募者の中から、一般に100人規模の学生を採用する。その間、極端にいえば、この「相性」を何回も、何人もの人間がチェックする。だから、かなり「相性がずれない」人が新入社員として入社することになる。
たとえ入社後、「相性」に問題があっても、上司部下の関係は人事異動でシャッフルできる。また合わない顧客がいても、配転でそれも解消できる。合わない仕事があっても、職務変更さえ可能だ。
入り口でかなり精緻に相性を整えたうえに、入社後にこうした微調整が可能。だから、辞めずに済む。それが大企業の入社3年離職率が低い真実の理由だろう。
一方、中小企業は、そもそも入社したいという応募者が少ない。相性の合う人ばかりを選ぶことはできず、エイヤ、で採用するしかない。
しかも、入社後は小さな世帯だから、人事異動で上下関係の解消は難しい。支店も少ないから地域の移動もあまりできないし、職務チェンジするほどの空席も社内にはない。
中小企業の場合、そもそも入り口で相性合わせができず、入社後の調整も難しい。だから、退職せざるをえなくなる。
給与や待遇や環境が悪い、ということよりも、この「相性不適合」の方が、中小企業の入社3年離職率が高い本当の原因なのだろう。
(雇用ジャーナリスト)