前回のこのコラムではフランスの学歴事情について書いた。では欧州のもう一つの大国、ドイツでは採用と学歴の関係はどうなっているか。
ドイツは本当に多くの大学で入試選考がない。また、大学の序列などもほぼないという。
かすかに学歴的な話としていわれるのは、一般大学より専門大学の評価が芳しくないこと。そして、特定の専攻分野では、まれに大学や研究室で序列的なものがあること、くらいだ。
こんな上辺の話をもとに「彼(か)の国には学歴差別がない」と胸を張る研究者もいる。
ただ、現実はやはり異なる。ドイツには日本や英国、米国、そしてフランスとは異なる学歴差別があるのだ。
それは、大卒よりも院卒、院卒でも修士課程卒より博士課程まで修了した人が上になるという、修了レベルでの差別化だ。その差が採用や職務、昇進の大きなポイントとなる。
しかも、ドイツの大学は学年制カリキュラムをとらないため、必要単位を取得して卒論を書けば、年次に関係なく卒業できる。超特急で修了することも可能だ。
だから、よりエリートになるためには「速さ」も重視されるという。
こんな状況を、ドイツの労働研究を行っている山内麻理氏(同志社大学客員教授)は、うまい言葉で表している。
日・英米・フランスのような学校によるランク付けを「ヨコの学歴」、ドイツのような修了レベルと速さによるランク付けを「タテの学歴」と呼んでいるのだ。
ドイツの場合、ある程度の規模の企業で出世が見込まれた人は、周囲から修士号を取ることを勧められる。さらに昇進しようと思ったなら、博士号取得が必要になる。
だから仕方なく、余暇に商工会議所の継続学習に通ったり、大学院に入りなおしたりする。
「大学と企業が近くてうらやましい」などとドイツを評する例がみられるが、学歴がないと昇進できない厳しさがあると気づくべきだろう。
山内氏から、ドイツの超大手企業を対象にした「社長の最終学歴」の調査を見せてもらったことがある。
1996年と2013年の調査だが、いずれも大手企業の社長はその45%が博士号保有者だった。
念のため説明しておくが、博士課程を修了しても博士号をもらえず卒業する人は多い。博士号は博士論文を提出し、厳しい査読を受け、論文審査を通った人しかもらえない。
彼の国で大手企業の社長になるには、それくらい「タテの学歴」が必要なのだ。
(雇用ジャーナリスト)