今回のコラムからは「大学の無償化」で先行する欧州の事例をもとに、今後の日本の教育がどうあるべきか、を考えていきたい。
まず、これまでもよく触れてきたことだが、欧州では進学・進級が非常に厳しく、義務教育中に落第する人が2割にもなる国が多々ある。こんな早期に烙印(らくいん)を押してコースアウトさせる厳しさを首肯はできないが、日本のように「落第はほぼゼロ」という状況にも問題はある。
どんなにわかっていなくとも、次々に進級できてしまうのだ。たとえば、小学校時代に九九ができなかった生徒も、中学に入ればX軸、Y軸といった座標軸を学ばせられる。だから、そこから先は理解不能となっていく。結果、歴史の浅い大学の多くは、小中学校のリメディアル(補習)をせねばならない。かといって欧州型の厳しさは日本に似合わない。さあ、どうすべきか。
実は、すでにこうした問題に真摯に向き合っている高校が国内に多々ある。それはチャレンジスクールという名で呼ばれていることが多い。何らかのきっかけで学習課程からドロップアウトした生徒を集め、現在の高校のシラバス(授業計画書)と齟齬(そご)をきたさない中で、しっかりリメディアルしているのだ。
まず、高校卒業に必要な74単位のうち、20単位は高校独自の設定が可能だ。54単位の必修のうち「総合学習の時間」の6単位も比較的自由度が高い。都合、26単位を完全に補習に充てられる。これらを小中学校の補習に使うことができる。
さらに残りの48単位についても、英数国社理それぞれ、レベル別クラス編成とし、それぞれの教科書を変える。こうすれば、be動詞って何? でとどまっていた生徒も、じっくりと指導が受けられる。
これはチャレンジスクール、東京都立桐ケ丘高校の一例をモデルとした。そう、とかく日本の教育は自由度が低いと訳知りに批判をする人は多いが、現実はけっこう緩くできている。こんな形で落第ゼロという日本の弱点を補う高校がどんどん出てきてほしいものだ。
最後に一点、大学に苦言を呈する。日本は大学でも落第が少なく、約95%の人が卒業できている。これは世界的には突出した高さだ。欧州だと6割程度の国が多い。そうした厳しさがあるから、大卒はすごいと社会でも評価を受ける。ただ、これは「学費無償だからこそできる」芸当でもある。生徒から学費を取らないゆえに、生徒にも厳しくできるのだ。日本の大学も無償化した暁には、ぜひともこの部分は欧州から学んでほしい。
(雇用ジャーナリスト)