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【就活のリアル転載】資格取っても無意味に? 何を実現したいかが勝負 海老原嗣生(2018/10/9付 日本経済新聞 夕刊)(2018/10/16)


 このコラムではここ数回、人工知能(AI)時代の職業教育のあり方について触れている。そもそもAIは複雑難解なルールをいとも簡単に覚えてしまう。だから税理士・会計士・弁理士など士業系の作業は代替されやすい。ところが物理的作業や、営業・庶務などの対人折衝は苦手とする。そのため、多くの人が従事している現場実務は案外残る。

 前回、こんな話をした。では資格を取るのは本当に意味のないことになるのか。そして、士業は全員が廃業することになるのだろうか。

 いや、それは間違いだ。ここからが、AI時代のキャリアの解となる。

 士業の仕事でもAIで機械代替できるのは、定型作業だけなのだ。コンサルティングや新サービス開発、顧客開拓などはできない。そうした対人・企画業務をしっかりやっている人たちは残るだろう。

 一方で、「営業は対人折衝があるからいや」などと、資格に逃げ込み机に向かって事務作業のみをしているような士業は不要となる。

 たとえば私の友人の税理士は、税務・登記・助成金を一括コンサルティングする「起業サポートセンター」というサービスを20年前に立ち上げて大いにもうけていた。

 10年ぐらい前からは、類似サービスを行う競合が増えたために、今度は税務査察の時に最後の砦(とりで)となってクライアントを守る「税務査察レスキュー」という新たなサービスを展開している。これも大いに当たっている。いずれも、企画・営業・物理的作業が伴う仕事であるから、AIでの代替は無理だろう。

 要は、「税理士になったら終わり」ではなく、「税理士を使って何をするか」こそが重要になる。つまり資格は目的ではなく、手段とすることだ。そして、「今の仕事がいやだから逃げ込む」のではなく、より大きな仕事をするためにこそ資格は取得すべきだ。

 現在だと、とかく私たちは「難易度の高い資格」を格上と思ってしまうきらいがある。そして大体は取得後の年収もその難易度に比例している。だから、資格や職業を「取得難度」で並べるような縦の価値観が染みついている。

 ところがAIが浸透した後は、「難しい資格」も機械代替されていく。とすると「資格を取ること」ではなく、資格を使って何をするか、こそが問われるようになる。

 どの資格・どの仕事でもいい。あなたはそれをもって何を実現したいか、が勝負になる。価値観は縦ではなく横に並ぶようになる。

(雇用ジャーナリスト)


     

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