「大学の前期15回の講義が終わり、学生からの受講後アンケートが送られてきた。私はある女子大学でキャリア系の約100人の講義を担当している。その学生からのアンケートを読むのは大変楽しみだ。
手前味噌になるが、おおむね「わかりやすかった」「実践的だった」という良い評価を書いてくれている。リップサービスもあるだろうが、講師としてはうれしく、もっと頑張ろうという気持ちになる。
その中で今年は少し気になる要望があった。「座席指定にしてほしい」という学生が何人かいたのだ。私は大学の講義はこれまで座席指定にしたことはない。座席指定とは、学籍番号順か何かであらかじめ席を決めておいて学生はそのとおりに着席するというものだ。
担当する講義は約120席の座席に100人が座るようになっているから、スカスカではないが、座る席が見つからなくて困るというほどのことはないはず。ただ隣の人とワークをする時間がある。いわゆるアクティブラーニングスタイルである。黙って座って聴いていればいいという講義ではない。
講師の私も教室中を歩き回って学生と話をしている。座席指定にしてほしいという学生の理由は、「みんなが仲の良い人と楽しげにワークをしているのに、自分だけ相手がいない時、寂しい気持ちになるから」というものだった。
むろん、選択制と指定制で多数決を取ったわけではないので、指定制の希望者の方が多くなったということではない。だが、大学の講義の席を自分で選ぶのは苦痛で、決めてもらった方が楽という学生が増えているのは事実だ。そんな彼女たちにとって就活とは、どれだけ棘(いばら)の道となるのか。
就活は選択につぐ選択だ。どの会社にエントリーするか、合同説明会に行って広い会場でどの会社のブースの話を聞くか、そして内定が複数もらえたらどちらの会社を辞退するか。選択の連続である。選択する力を養うために、大学の講義で自分の席を選択するという、小さなことから積み重ねていってほしいと次回の講義からは説明しようと思う。
現実問題として自分の座る席を選択できない大学生が増えているのに、経団連は就活ルールを撤廃して自由競争にするという。学生はいつから就活を始めればいいのか決められないだろう。出遅れる人が続出して、気づいたら卒業していたということにならなければいいのだが。
解禁日に一斉にスタートすることが、選択できない大学生にとって助けになると思うのは、親心が過ぎるだろうか。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/