知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】内々定が出ない焦り 落ちてつかめる「相場観」 海老原嗣生(2022/5/31付 日本経済新聞 夕刊)(2022/06/07)


 そろそろ就活も序盤戦が終わり、内々定をもらった学生も増えてきた頃合いだ。一方では、何社も落ちてうなだれている学生も少なくないだろう。周囲を見渡して焦る気持ちを察するに余りある。

 ただ、あえて私はそんなへこんでいる学生にこう言いたい。「よく頑張ってるね。成長している証だよ」

 そう、これは成長痛であり、一種の通過儀礼でもあるのだ。

 「就職」という行為に対して学生は無防備だ。いや、私が学生だった頃に比べれば、キャリアセンターをはじめとする学校側の支援や、インターンシップなどの企業の協力など、はるかに仕事の内容や社会人生活に触れる機会は多い。

 ただそれでも、肝心の就職先が決まるまでの「相場観」は培えていない。それは自らが応募して何社も落ちて、ようやく確かなものになっていく。

 「相場観は、大学や企業側がきちんと情報開示すれば、もっとスムーズに醸成されるはずだ」と言う人も多い。

 確かに「採用実績校」を非開示の企業は多いし、大学側も自校のブランディングの一環で、遠い昔に採用者が出たことがある企業の名前を長らく「就職実績」に掲げている。こうした情報により、学生たちはつい夢を描きがちだ。

 だが、仮に産学両方がありのままに情報を開示したとしても、学生本人にとっては他人事であり、本気で相場観を持つには至らないだろう。

 私は毎年、口を酸っぱくして、データで企業の採用状況を学生たちに伝えてきたが、何社も落ちるまで、実感は持ってもらえなかった。そして、それは至って当たり前のことなのだ。

 たとえば、世の中の高校生は全員が全員、東大や京大を受験することなどない。こうした「超ブランド」校でも、応募者は定員の3倍程度と本当に少数だ。それはみな「合格の相場観」を持っているからだろう。

 思えば、小学校から何度も学校で試験があり、中学・高校と進めば受験などもする。そうした中で、自分の可能性を知る機会が多々あるから、相場観もわいてくるのだ。

 就活は「現実にトライして落ちたり受かったりする」という行為を何もせずに、大学終盤になっていきなり本番になる。大学受験なら十数年かかって育んだ相場観を、たった数カ月で身につけなければならないのだから、つらいに決まっている。この苦しさは「一皮むけるための痛み」ととらえ、自身も周囲も「順調に成長しているな」と達観するくらいに構えてほしい。

 まばゆい企業に受かった友人が周囲にいたとしても、焦ることはない。今は妬ましく見える彼、彼女らが、2年もすれば会社の愚痴を言うようになっている。あなたは、自分のことを愛してくれるぴったりな企業をじっくり探すことにしよう。

(雇用ジャーナリスト)


     

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