知っておきたい就活情報

【就活考転載】内定辞退者どう捉えるか 未来の採用候補者に 曽和利光(2026/2/9付 日本経済新聞 夕刊)(2026/02/17)


 三井住友海上火災保険は、選考途中で辞退した人など、過去に同社と何かしらご縁のあった人の情報を一元管理し、これをタレントプール採用と位置付けているという。これは慧眼(けいがん)だ。

 これまで企業は学生の内定辞退を関係の終了として扱い、「裏切り者」「拒絶者」と見なしてきた。しかし、実際は「今回は選ばなかった」というだけだ。一度は「ぜひ一緒に働きたい」と評価したわけであり、貴重な未来の採用候補者である。

 能力や価値観の不一致ではなく、人生のタイミングが合わなかっただけ。家庭事情、挑戦したいテーマ、勤務地など人の意思決定には常に多くの複雑な要素があり、就活・採用の場面でも例外ではない。

 第二新卒市場は小さくない。厚生労働省の調査では、新規大卒入社(2022年)の3年以内離職の割合は33.8%に達している。新卒の約3分の1が、数年後に再び労働市場に戻ってくる。彼らは、社会経験を通じて自分の適性や志向をある程度理解した層でもある。第二新卒は例外的存在ではなく、巨大な採用市場の中核だ。

 にもかかわらず、多くの企業は新卒と中途採用を分断して考え、内定辞退者や若手離職者との関係を一度で断ち切ってしまう。これは、とてももったいない判断だ。これからの採用は短期間の点の勝負ではなく、中長期にわたる線の関係づくりである。一度生まれた接点をどう保ち温め続けるかが、数年後の採用力を左右することになろう。

 学生側にも課題はある。現在の就職市場は売り手市場で、結果として学生の行動量が減っている。エントリーする会社数は絞られ、短期間で内定を得て活動を終えるケースも多い。一見合理的だが、必ずしも本人にとって最良のマッチングとは限らない。比較の機会が少なければ、「選べた」ことと「合っていた」ことは簡単に混同される。

 企業にとっても、学生の行動量の減少は問題である。接点が限られれば、相互理解が深まる前に選考が終わり、結果としてミスマッチが起きる。早期離職が増え、第二新卒市場が拡大する一因にもなっている。だから、短期的な内定獲得競争ではなく、長期的な関係構築に軸足を移す必要があるのだ。

 内定辞退者をむげに扱わず、きちんと門出を祝う言葉をかける。選考途中で辞退した人に、一定の距離感を保ちながら情報を届け続ける。そのようなことをしていけば数年後、人生の局面が変わったときに「そういえば、あの会社は丁寧だった」と思い出してもらえる。これは情緒的な理想論ではない。極めて現実的な採用戦略ではないか。

 就活は一度きりの勝負ではない。採用もまた、1回で完結する取引ではない。人と組織の関係は、時間の中で何度も形を変えながら続いていく。内定辞退者を大切にしたい。

(人材研究所代表)



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