前回に引き続き親から子への文化資本の相続について考えていきたい。専門性の高い知識・技能は、文化資本、社会関係資本、(自尊)感情資本にも積極的な影響を与える。専門性の高い知識・技能は、学力や文化的な水準に直接的な好影響を与え、社会関係資本をさらに広げる。また自信や誇りを養い感情資本をさらに強化する。別言すれば専門性の高い知識・技能を持ち、高い感情資本を持つ人のところには大きなネットワークが形成される。
また、これら四つの資本は全てリンクている。経済資本の有無やその量が、その他の資本と密接に関わっており、経済資本が文化資本や感情資本に結びついていることはこれまでに述べた通りだ。例えば、志望大学に入ろうとすれば、本人の能力・努力・適性と関わっていることも現実であるが、一定のお金をかけて教え方のうまい高額の予備校に行くか、専門的な家庭教師についた方が有利であることも事実である。
社会関係資本についても、どのような家庭で育つのかによって、人的ネットワークが大きく異なる。東京大学に通っている学生に「あなたの周りに東京大学を出た人はいたか」と聞くと、多くの学生の周りに東大出身者がいる。こうした社会関係資本、ネットワーク資本の影響は他の資本にも積極的な影響を与える。
これらのベースが教育なのである。ベースである教育が好循環の起点になるか、悪循環の起点になるかによって、個人の人生も大きな影響を受ける。これは貧困層の固定化、差別の固定化にも重大な影響を与えている。本連載で示した好循環の逆を想定すれば、負の循環は容易に理解できる。かつてのような終身雇用制度等が崩壊している下ではなおさらである。中学・高校を卒業して企業内で努力すれば一定の昇進が可能で、終身雇用が多くの企業で保障されていた時代、貧しくても努力すれば企業内でも一定の専門的なトレーニングを受けることができた時代なら、貧困層の固定化は起こらなかった。現在は貧困層が固定化されるような社会システムが厳然と存在している。
こうした時代背景の下、経済資本が少なく十分な教育を受けられなければ、高い知識・技能は身に付けられない。経済力をバックにした親のサポート力によって、子どもが受けることができる教育水準が決まり、その水準が人生に大きな影響を与える。親が子どもを何歳まで支えられるのかによって、子どもの持てる知識・技能に大きな差が出てくる。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)