前回は政治宣伝7つの原則の第一である「ネームコーリング」と第二の「華麗な言葉による普遍化」について紹介させていただいた。今回は、権力の目的や方法を正当化するために権威や威光を利用する第三の「転換」から紹介したい。人々は権威や威光には極めて弱く、世論や意見を180度「転換」させることも可能である。誤った見解であっても、権威のある人々の見解であれば、容易に信用してしまう。カリスマ的な各界のリーダーや独裁的な企業内の経営者などもその類いである。こうした人々が発言すると、その組織や企業内の世論は大きく転換する。ヒトラーは、自身の主張を権威のある科学者の見解を引き合いに出して世論を劇的に変えた。
第四は、第三とも関連している。尊敬や権威を与えられている人物、成功した人物を用いた「証言利用」である。例えば体重を減量することに成功した人の証言や写真は、これから減量に取り組もうとしている人々に大きな影響を与える。あるいは大学受験に成功した人の合格体験や証言は、これからそれらの大学を受験しようとしている人々にとって、予備校や塾の選択、受験参考書の選択に大きな影響を与える。こうした「転換」や「証言利用」というフィルターを除いて情報を判断しない限り、正確な情報を読み取ることはできない。
第五は、大衆と同じ立場にあることを示して安心や共感を引き出す「平凡化」であり、政治宣伝では多用されている。大衆的でない政治家を大衆的なイメージに見せて宣伝することである。
第六は、「いかさま」である。自らにとって都合のよいことがらを強調し、不都合なことがらを矮小化したりすることである。敵対する組織・人物の良い面はまったくいわず、悪い面や不都合な面を何倍にも強調して宣伝することである。多くの人々は、情報の内容を精査することなく、良いイメージや悪いイメージを持ってしまう。
第七が、みんなが行ったり信じていることを強調し、大衆の同調性向に訴える「バンドワゴン」である。直訳すると「楽隊車」である。多くの人々が大学に合格するためにこの予備校に通っているといわれると、自身も行かなければ大学に合格できないんじゃないかという心境になるようなことである。子どもが自身が欲しいものを親にねだるときに「みんな持っている」といわれると買ってやらねばならないと思うようなことである。
現実を正確に把握する場合、情報にからみついている上記のようなものを取り除かなければならない。そのためにも情報リテラシー能力が求められる。
さらに、社会的な偏見や差別意識に迎合する形で情報が歪曲されている場合、多くの人々には歪曲された情報が正確な情報と映り、歪曲されていることに気づかない。
今一度、自身の情報リテラシーを検証し、情報を正確に把握することの重要性を理解して欲しい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)