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【社会に出る学生のための人権入門】(第15回)人権とは? これからの社会と人権Ⅰ(2018/11/15)


 21世紀のおける産業のキーワードは、「IT(情報技術)革命」と「ゲノム(遺伝子)革命」であるといわれている。その中でもIT革命の進化にともなう人工知能(AI)の技術は政治、経済をはじめとする社会の多くの分野を大きく変えようとしている。それにともなって人権問題もより高度で複雑で重大な問題になっていく。

 人工知能の進化は、脳科学の進歩に支えられており、脳全体の仕組みを解明する日米欧などの国家プロジェクトには、10年間で数千億円の予算がつぎ込まれている。それらの成果は人工知能研究に取り込まれ、人工知能の進化を一層促すことになるだけでなく、認知症をはじめとした脳に関わる病気治療にも活かされようとしている。

 人工知能は、現在のところ人間のように多種多様な能力は備えていない。しかし各分野の専門能力では、現在の人工知能でも人間の能力を大きく超えているものも少なくない。それは囲碁や将棋の世界だけではなく、多くの分野でも証明されている。画像処理の優れた能力をもつ人工知能の「皮膚ガン専門医」の方が、人間の皮膚ガン専門医よりも正確な診断をしたことなども紹介されている。

 また世の中の様々なモノ(機器)がインターネットにつながるIOT(Internet Of Things)の技術と、機械自体が知的進化を遂げていく人工知能の技術によって、大量のデータを利用して、人工知能が的確な判断を下すようになる時代を迎えている。

これらにゲノム革命の成果が加われば医療も大きく変わる。

 米国では個々人の全遺伝情報を暗号化してカルテに挿入する計画が進行している。それが実現され、医学のデータベースがより整備されれば、自身の体質と症状をふまえて、人工知能の「総合医」がかなりの精度で診断し、必要な治療法と処方すべき薬を提案してくれる時代が訪れることになる。そうした診断結果を持参して、医師への面談という時代が来るかもしれない。

 人間の医師も人工知能の「医師」や巨大医療データベースとアクセスしながら診断を行い、治療方針を決める時代になっていくと予想される。多くの医師は人工知能の各種「専門医」に画像診断等をさせ、それらの正確な診断結果をふまえて、患者の意向等を考慮しながら治療方針を判断していくことになる。

 これらは医師の役割や医療のあり方も大きく変える可能性をもつ。それは医療の分野だけでなく、次号で紹介する多くの分野で同様のことが起こり、労働や教育、生活等に多大な影響を与える。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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