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【社会に出る学生のための人権入門】(第16回)人権とは? これからの社会と人権Ⅱ(2018/12/13)


 前回紹介したAI(人工知能)を含む科学技術の進歩はあらゆる分野に広がっていく。例えばAIの進化によって、自然言語処理の能力が高まれば、多くの文書を読みこなし、それらのデータを分析し、多くの提案を行うことにつながる。さらに多くの研究成果や文章の要約もしてくれることになる。編集者の仕事も大きく軽減される可能性も出てくる。翻訳分野でも自然言語処理の大きな進化は同時翻訳の自動化にも大きく貢献している。すでにマイクロソフトのインターネット会議システム「スカイプ」では、スペイン語と英語の同時通訳の自動化を実現している。

 このような大きな社会変革をともなう時代は、多くの人々の仕事をはじめ人生に圧倒的な影響をあたえる。かつて別の連載で人口変動を論じたとき、65歳以上でひとり暮らしの男性の16.7%は2週間に1回以下しか会話をしないというデータを紹介したことがあった。こうした人々も、インターネットにつながった自然言語処理能力を備えた多くの家電(例えば冷蔵庫)と会話し、夕食の献立をアドバイスしてもらっているかもしれない。さらに人権分野でも多様な利用が考えられているだろう。

 AIを搭載した完全自動運転車が販売されるような時代になり、人が自動車の運転をしなければならないことになっている法律等が改正されれば、一人暮らし高齢者で「買い物難民」になっている人々の生活は大きく変わるだろう。ヒザが痛くて長い距離を歩けない高齢者でも自動運転車に命じて好きなところに買い物に行けるようになるかもしれない。それらの自動運転車が法改正によってタクシーとして活用されるようになれば、地方の多くの「買い物難民」の方々をはじめとする移動に困難を感じている人々の生活も大きく変わる。

 一方で邪悪な利用のされ方で多くの問題を社会に惹起しているかもしれない。だからこそIT革命やゲノム革命の分野以外の法学や政治学、社会学、哲学、経済学、経営学、心理学、宗教学など多様な視点での議論が求められているといえる。そうでなければ科学技術の進歩が多くの人々を幸せにすることはできない。

 以上をふまえて上で、今一度「人権問題は科学技術の進歩とともに、より高度で複雑で重大な問題になっていく」ことを肝に銘じる必要がある。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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