前回、人権侵害に関わってサイバー攻撃ついて執筆させていただいた。これらが個人だけでなく企業や組織に多大な悪影響を与えている事例を紹介した。それとも関連しているAI(人工知能)についてその積極面と消極面について本連載で論じてきた。その積極面と消極面が日進月歩で深化している。再び取り上げておきたい。すでに本連載で「AIを制する企業が産業を征する」、「AIを制する国が世界に圧倒的な影響を与える」と記したことがあった。またその際にAIの基本的な構造について以下のように解説した。
コンピューターの飛躍的な進化によって、「機械学習」(自ら学習して賢くなる)が可能になり、その最高峰としての「ディープラーニング」(深層学習)ができるようになった。人間の脳内の神経回路網を工学的に模倣したAI「ディープ・ニューラルネット」が創られたことによって、コンピュータ(AI)自身が物事の判断基準となるルールをビッグデータから見つけ出すこともできる時代になった。人間と同じように見るもの、聞くもの、触れるものすべてがビッグデータとして経験値となっていく。それは臨機応変な人間の判断に近づくことを意味している。人間も視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚等のセンサーによって得たデータから多くのことを学び、それらを知識や経験値として蓄積することでさらに進化してきた。それと同じようなことをAIは多種多様なセンサーによって蓄積されたビッグデータから人間と同じように学んでいく。
今日ではAIが学ぶための教材であるビッグデータが、センサーの爆発的増加にともなって飛躍的に増大している。さらにデータの増加やその処理を支えるコンピューターの進化によってAIの性能も加速度的に高まっている。またデータの指数関数的増加とその保存が極めて安価で容易になった。技術的・経済的な基盤の進歩がAIの進化を支えているのである。
ビッグデータを学習すればするほどAIの判断能力は向上する。その判断能力をロボットに組み込めばより的確な判断を行なうロボットになっていく。社会にはあらゆる分野で判断をしなければならないテーマが無数にある。ジャンルも政治や経済・経営、教育、医療、生活、労働、情報、法律など人間活動のすべてにわたっている。私たちは日常的に判断したり、選択したりしている。その判断も些細なことから人の生命に関わる判断まである。こうしたAIによる判断が人権問題にも多大な影響を与えるようになった。それらの具体的事例を次回以降にお伝えしたい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)