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【ビジネスと人権を考える】バリューチェーン全体の経営課題 大阪経済法科大学教授 菅原絵美(2021年11月10日付 日本経済新聞 朝刊より転載)(2022/01/20)


 「ビジネスと人権」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、バリューチェーン全体にわたる企業活動(調達、製造、流通、投資など)と、ステークホルダー(労働者、消費者、地域住民など)との関わりで生じる人権課題を包括的に捉える視点です。

 企業は国内外で「ビジネスと人権」に関する責任や役割を求められ、人権は企業の経営課題であることが再認識されています。

 近年、企業の人権尊重責任を問う動きが活発化しています。米国は中国の新疆ウイグル自治区で指摘される強制労働と関係する製品の輸入を禁止し、欧州連合(EU)は環境やガバナンスと合わせて取り組みを義務化する指令案を検討しています。背景には英、仏、豪、蘭、独などの国内法整備があり、日本でも「『ビジネスと人権』に関する行動計画」が2020年10月に策定されました。

 政府の動きに先んじて、ESG(環境・社会・企業統治)投資や持続可能な調達・取引が重視され、市民社会は環境や社会問題とともに、企業の人権尊重責任を問うようになりました。

 さて、企業に問われる「ビジネスと人権」の責任とはどんな内容でしょうか。国連人権理事会は11年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を承認しました。企業の人権尊重責任を明確化した初の国連文書で、法的拘束力はないものの、国家、国連機関のみならず、企業、市民社会に広く普及し実行されています。

 ここで確認された企業の責任は、バリューチェーンで関わる人々の人権を「国際的に認められた人権」の視点から尊重する責任です。経営に「ビジネスと人権」の視点を組み込み、人権尊重を盛り込んだ方針を策定します。そのうえで、事業活動で人権侵害がないよう相当な注意(デューデリジェンス)が求められ、人権侵害の被害者が被害を伝えるメカニズムも設ける必要があります。

 「ビジネスと人権」は、人権侵害に対する企業の責任を正面から問う点で視点の転換も求めています。

菅原絵美(すがわら・えみ)大阪大学博士(国際公共政策)。専門は国際法、国際人権法。


     

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