前回に引き続いてAIの進化にともなう情報環境の激変と人権について考えていきたい。AIを活用するとは一面的にいえば情報を活用することである。私たち人間は各種の情報に基づいて行動している。正確にいえば人間だけではなくほとんどの動物も同じだ。動物の進化においても情報を獲得するセンサーの役割は極めて大きい。人類が誕生した大きな節目は、約5億年前のカンブリヤ紀に生物が光センサーをもつようなったことである。そのことによって周辺の状況を把握する視覚を生み出した。それが生存競争の激化につながり脳の進化を加速させた。光センサーの獲得が情報量の飛躍的な増加につながったのである。
現代もセンサー革命といわれるように情報量の爆発的な増加の時代である。それも人間がもつ視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚等のセンサー以外の多様なセンサーが製造されている。スマートフォン一つでも10種類以上のセンサーが内蔵されている。そのスマートフォンは言うまでもなくインターネットにつながっている。こうした情報を収集し多様な視点で分析するのは極めて容易だ。IOT(インターネット・オブ・シングス=あらゆるものがインターネットつながる)時代であり、インターネットにつながっている各種デバイス(情報端末や周辺機器)も今日では世界で350億個を超えているといわれている。それらのデバイスから収集される情報は膨大なものであり、保存コストも四半世紀でおおよそ100万分の1になり限りなくゼロに近づいている。これらの情報がビッグデータとなり多様な視点で分析すれば極めて有用な情報になっていく。
そうしたビッグデータ保存を可能にした一つがクッキー(Cookie)であり、その他のデータ保存のための各種デバイスである。またそれらの情報分析を可能にしたアルゴリズムの存在だ。クッキーとは、Websサイト等の閲覧履歴をはじめとするデジタル活動の内容が記録されているものであり、アルゴリズムはビッグデータ等を分析して情報の優先順位やルール等を導き出す「計算手法」である。これらは今後、コンピューターの進化とアルゴリズム手法の改善によってさらにその能力を向上させていくだろう。これまで個々の情報だけを観察していても分からなかったことが、ビッグデータの分析を通じて極めて有用な情報として可視化されていくことになる。単に情報を収集・発信するだけではなく、私たちがこれまで知ることのできなかった知見がアルゴリズムの活用によって有用な情報を提示してくれることになる。こうした進化がビジネスや人権に圧倒的な影響を与えていく。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)