現在はこれまで以上に「情報力」や「知力」がお金を生み出す時代である。そうでなければグーグルやメタ(旧フェイスブック)に代表されるプラットフォーム型企業がこれだけのスピードで急成長することはできなかった。「インターネット」や「スマートフォン」の登場が情報面の膨大な力をプラットフォーム型企業に与えた。それに生成AIが付加されれば知力・情報力は飛躍的な前進を遂げる。「知は力なり」というイギリスのフランシスコ・ベーコンの格言にはより深い意味があるが、表面的な解釈だけでも知識が私たちに大きな力を与えていることは自明である。
インターネットやスマートフォンというシステムと電子機器は2000年代になって多くの人びとに普及した。特権を与えられた人びとだけが所有できるものではない。多くの人びとがこれらのシステムや機器を使用しているからこそプラットフォーム型の企業も情報を活用してビジネスを展開することができるようになった。圧倒的多くの人びとがネットにつながっているからこそ、前回紹介したように情報面におけるテコの原理が成立したのである。このテコの原理をさらに強化するのが生成AIだ。テコの原理は、支点・力点・作用点があっても、その三点をつなぐ「棒」がなければテコの原理は成立しない。そしてその「棒」が強靱なものでなければ重い物体を動かすことはできない。「棒」が折れたり歪んだりするものではテコの原理は役に立たない。アルキメデスの言葉を補強するなら「我に支点と『絶対に折れない棒』を与えよ。ならば地球も動かさん」といえるだろう。その強靱な「棒」の役割をするのが生成AIである。
強靱な情報力ともいえる生成AIが世界に圧倒的な影響を与える時代になりつつあり、これらの情報が主要な資本を形成する時代になっている。今やかつての資本に代わるものが「情報」であり、「アプリ」や「ソフトウェア」だ。地主がその土地から利益を上げた時代から、生産工場から利益を得る時代になり、お金が利益を上げる時代になった。そして「デジタル情報」がお金を生み出す時代になった。資本の在り方が根本的に変わったということだ。産業資本主義から金融資本主義に変わり、情報デジタル資本主義に変化している。こうした状況がビジネスや労働の在り方を根本的に変えようとしていることを見落としてはならない。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 特任主任教授)