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【社会に出る学生のための人権入門】(第95回) SNSが与える社会への影響と人権⑥(2025/07/10)


 これまで本連載で述べてきたようにSNSは大きな影響力を持つ。だからこそ利用の仕方について一定のルールが必要なのである。そうでなければ多くの人びとはフェイク情報によって容易に操作されてしまう。社会が進歩すればするほど「情報の在り方」や「情報流通の在り方」、「知識としての情報」が圧倒的な影響を与える。

 歴史においても「情報」は大きな影響を与えてきたが、マスメディアの登場によって、その影響は桁違いに大きくなった。そのマスメディアはそれを担う企業等の自主的で自律的ルールによって自主規制が行なわれてきた。しかしSNSに動画等をアップしている個人や組織には人権等に関するルールはないに等しい状況だ。そうした現実がSNS上の人権侵害状況を悪化させている。

 また情報の一つの形態である「知力」が政治や経済においてますます重要な位置を占めるようになった。SNSを駆使するスキルと「知力」、広めるべき「情報」内容を構築する能力があれば社会に大きな影響を与えることができる時代になった。もし人権を侵害する側が「知力」「情報力」を持てば、人権侵害が横行することになる。その知力の究極の姿の一つが生成AIだ。

 いずれ天才的な科学者が創りだしたAIが天才的な科学者を凌駕する時代は間違いなくやってくる。あるいは天才的な科学者がAIを駆使して科学を飛躍的に進歩させる。その相互作用を通じて加速度的に進化した科学技術は私たちの予想を遙かに超えるものになる。

 AIは将棋でも囲碁でも人間から学んだ方法によって人間では考えつかないような新たな指し手を編み出した。今後の戦争においてはAIが新たな戦略・戦術を考えていく可能性も高い。人間参謀だけでなく、AI作戦参謀、AI補給参謀、AI情報参謀が協議をしながら戦争戦術を考える時代は必ずやってくる。これらは戦争の在り方も政治の在り方も大きく変える。

 いずれ多様なSNSを駆使して選挙情報を収集し、それらのデータを分析した上で選挙戦術を始めとする選挙方針を立案し、マニフェストを作成するAIが登場してくる。その時は最も優れたAIを開発・所持している政党や集団が最も強くなる。まさに情報と知識が戦争や選挙の勝敗に圧倒的な影響を及ぼすということだ。こうした未来をふまえてビジネスや労働について考えていかなければ、ビジネスや公正採用の分野での人権確立は前進しないといえる。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 特任主任教授)



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