前回、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)について紹介した。アンコンシャス・バイアスを持つとその偏見に合致した情報をフェイクであっても容易に信じてしまうようになり、ますます偏見が強化されてしまう。自身の思想信条や喜怒哀楽、趣味嗜好といったフィルターに基づいて情報を収集する傾向が強まり、思想傾向や価値観がより一層過激化することになる。
そうした傾向はアンコンシャス・バイアスを前提とするマイクロアグレッションにつながる。マイクロアグレッションとは、無意識の偏見や思い込みが言葉や態度に現れ否定的なメッセージとなって伝わり、意図せず誰かを傷つけてしまうことだ。無意識に行ってしまうものだが、その影響は被害者に重大で深刻な影響を与えることもある。また発言者に悪意がないことが多く相手を傷つけている自覚がないため被害者がより一層傷つくこともある。マイノリティは日常的にマイクロアグレッションに直面している。具体的には「あなたは外国人だから、日本の文化や習慣を理解できないでしょう」、「あなたは若いから、経験や知識が足りないんだろうね」等の発言を行うことである。
こうしたマイクロアグレッションの被害者への影響は、不安・葛藤・ストレス・心身の不調などを感じさせ、個人の成長やキャリアの阻害、発言者が自覚していないことによる苛立ちと失望につながっていく。そして気づいている人の多くは抗議の声を上げられない場合が多い。また組織に及ぼす悪影響も大きい。人材採用や評価において能力や実績ではなく属性で判断してしまい、優秀な人材を見逃したり、不公平な扱いをしたりするリスクが生じる。さらに多様な顧客ニーズや社会の常識とのずれによって信頼関係に悪影響を与えることも少なくない。偏った情報発信による炎上を引き起こす可能性が高くなり、多様な意見や視点が尊重されず、同調圧力や排除姿勢が生まれることもある。コミュニケーション不全やモチベーション低下、離職率の上昇などの問題を引き起こす可能性も高くなる。
他にもイノベーションやクリエイティビティを阻害したり、生産性やパフォーマンスの低下、働く人びとのモチベーションの低下を招き、多様な社員をマネジメントできなくなったりし、ハラスメントの増加にもつながる。
これらのマイクロアグレッションをなくすためにマイクロアグレッションをしている可能性を自覚することが重要である。気づきがなければ改善できないのである。気づくためには周りの指摘に謙虚に対応できるか否かがポイントになる。端的にいえば周りから注意してもらえるような人格か否かということだ。周りから注意してもらえるのは評価すべき人格であるという認識を持てば気づくことができる。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 特任主任教授)