近年、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)への関心が急速に高まっている。アンコンシャス・バイアスとは、無意識の偏見・偏り・思い込みのことであり、特定の属性の人に対して、固定観念や先入観、歪んだ解釈を持つことである。過去の経験や価値観、知識、信念などに影響を受けていることも多く、ものの見方や捉え方がゆがんだり偏ったりしていることである。誤解を恐れずに言えば筆者も含めてすべての人びとが持っている。
アンコンシャス・バイアスを持つ人は、無意識にハラスメント発言や差別発言を行なうこともあり、周囲の人びとを傷つけることも多い。しかし本人は自身の発言等で周囲の人びとを傷つけているという自覚がない。自覚がないからこそ加害者であり続けるのだ。
またアンコンシャス・バイアスに合致した情報をフェイクであっても正しいと認識し現実を見誤ることも多い。フェイクを見抜けなければ現実を正確に捉えることができず、誤った現実認識をふまえて誤った判断をしてしまうことになる。さらにフェイクを見抜けなければ差別意識や偏見も増幅する。こうしたことはフェイクメールであるフィッシングメール等に騙されて容易にサイバー攻撃を受けることにつながることになってしまう。つまり上記に示したような多くのリスクに晒される。
例えば各種ハラスメントの加害者になった場合は、法的リスクだけではなく、信用リスクや経済的リスクにもつながる。しかし発言者に悪意がないことが多いため相手を傷つけている自覚がないことによって、被害者をより一層苦しめてしまい、被害者がハラスメント被害を訴えたときは、相当深刻な問題になっていることも少なくない。
理解を深めるためにもアンコンシャス・バイアスの具体例として「ハロー効果」を上げておきたい。ある人物に好意を抱くと、その人物に対する全てのものに対して好意的に考えるようになることである。例えば気に入った部下への甘い評価と気に入らない部下への厳しい評価をするようなことだ。多くの制度やシステムに含まれるアンコンシャス・バイアスも数多くある。女性差別的な制度や慣習は、男女雇用機会均等法等が施行されて40年弱経つ今日でも存在する。あるいは自分が正しいと思っていることだけを信じて行動し、異論や反対意見を聞き入れないといった「確証バイアス」を自覚なく持っている人も少なからずいる。是非、自身のアンコンシャス・バイアスを客観的に見つめてほしい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 特任主任教授)