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【就活のリアル転載】企業の変革 採用で実現? 若者頼み、虫のいい話 海老原嗣生(2017/8/7付 日本経済新聞 夕刊)(2017/08/14)


新卒採用で数年おきに繰り返される失敗には、SHRMというものもある。戦略的人材採用を指す英語(strategic human resource management)を略したものだ。「企業の将来像を描き、その変革に必要な人材を採用する」という考え方を指す。

一見とても美しく見えるこの方針も、ここ20年来、数年おきにブームとなり、そのたびにしぼんでいった。

まず、企業の将来像を伝えてその変革を一緒に成し遂げよう、と銘打っても、応募者はそれほど多くはない。そうした高邁(こうまい)な方針よりも、現在の仕事や待遇などがやはり誰でも気になるからだ。

とはいえ、感度の良い少数の学生たちには「高邁な方針」は受ける。ただ、こうした「高邁な方針」は、言うだけなら誰でもできる。そこで、優秀な学生が採用できるとわかると、多くの企業が横並びで「高邁な方針」を訴え、変革人材を採用しようとする。結果、少数の学生に企業が多々、という構図で採用が難しくなる。

こんな難しい状況を乗り越えて変革人材を採用できたとしても、今度は、彼らの定着に企業は苦慮する。「将来の企業」には合っている人材だろうが、「現在の企業」はそれとは大きなギャップがあるからだ。彼らは一様に、「あまりにも現実が異なる」と失望し、離職率も高まる。

チャレンジ採用や次世代採用などという言葉でこうしたSHRMを実施した企業は多いが、結局はこんな感じで終わる。

ごくまれに「この若手女子の採用により、会社が変わった!」というシンデレラストーリーが語られることもある。ただし、こうした会社は、すでに社内改革に成功しつつある中で、その変化の波に彼女が乗っかったというのが正しいところだ。彼女は「変えた女」ではなく、「トークン・レディ(象徴としての女性)」というべきだろう。

実際に改革が進行している企業であれば、その実績や変化なども、採用広報や説明会で詳しく語ることができる。言葉だけの「高邁な方針」よりも、応募する側の信頼感は高まるだろう。そして彼らが入社した後も、改革が進んでいるために「こんなはずじゃなかった」という失望は起きない。

要は、企業変革を望むのであれば、まず、企業自らが先に変わっていかなければならない。それを、20歳やそこらの若者に期待するなど、虫のいい話なのだ。SHRMの多くが、この基本をはき違えている。

(雇用ジャーナリスト)


     

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