「急に内定辞退者が出てきて慌てている」とある中堅企業の人事担当が漏らしていた。この時期、各社の最終面接が終わり、複数の会社の内定を持っていた学生が内定を1社に絞り、他の会社に辞退の連絡をしているのだ。
内定を辞退するのは、学生の自由かもしれない。学生にとっては大事な人生の選択であるし、なかなか決められないというのもわかる。ただし、断るときは丁寧に礼儀を尽くしてほしいものだ。
中には内定の承諾書を送っても音沙汰ない学生や、電話しても無視するという学生もいると聞くが、失礼な話である。学生の無礼な行動はその学生一人の問題にとどまらず、大学全体のイメージを損なう可能性があるので、後輩のためにもきちんとしたマナーにのっとって丁寧に断ってほしい。
今年、この内定辞退にまつわる問題はいろいろなところから聞くが、中には辞退者がほぼゼロという会社もある。社員600人規模の建築資材関係の会社で、採用数は30人。しかも入社後3年間、一人の離職者もいないという。にわかには信じがたい話だ。
どんな採用方法をとっているのか、採用担当の責任者に聞いてみた。その会社は面接らしい面接は、最終の役員面接だけだという。会社説明会の次の段階は、喫茶店で話をするそうだ。
それが他社の面接に相当するのだが、試験ではなく「相互理解の場」と捉えてじっくり話をする。とことん会社のことを説明し、マイナス面も話すという。「事務所は土足なので土ぼこりがあり、整然としたきれいなオフィスとはいえません」というように。
同様に学生にも話をしてもらい、お互いがよく理解した上で、納得して次に進むそうだ。「特に志望動機は聞きません。つくりこんでいて、本音は出てこないので」と言う。「志望動機が一番大切です」と学生に教えている私には耳が痛いが、「聞かない」というのも一理あると思う。
また、ある航空関係の会社は内定を通知する際、電話でじっくりと面接内容を振り返って話すそうだ。「あなたの学生時代のボランティアの話にホスピタリティーを感じました。ぜひ、一緒のチームで働きましょう」というように。学生は自分が期待されていること、会社に入ってからの働きがいなどを感じるそうだ。メールだけのやり取りより、安心感もあるのだろう。
売り手市場の今年、会社側も学生側も誠意をもってマナーよく対応し、内定辞退のトラブルを回避してほしい。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/