採用基準で頻出度抜群なキーワードが「コミュニケーション能力」だ。
これほど、学生を悩ませるワードはないだろう。この言葉が出ると、口下手でシャイな学生は皆、「自分はだめだ」と暗い気持ちになる。
ところが、だ。そういう企業にも、話し下手な社員が多々いたりする。大メーカーなどは、むしろ、口下手でシャイな人間の方が多かったりもするのだ。これはどういうことか。
そう、「コミュニケーション能力」とは、単に立て板に水でしゃべりまくることを指すのではない。
私は、大まかに言って、5つの能力からなっていると考えている。
(1)相手に理解させる能力。話が単に面白い、ではなく、要点を絞り、最適な順序で過不足なく話すこと。
(2)相手を理解する能力。これも、単に聞くのが好きではだめだ。適宜あいづちをうちながら、わからないことをしっかり聞く質問力や、それを自分の中で腹に落としてまとめる力などを指す。
(3)相手に配慮する能力。相手の立場になり、気持ちをおもんばかる力。
(4)関係を築く能力。知らない人たちとも仲良くなる力。単純に言えば、ずうずうしさ。
(5)関係を維持する能力。人に嫌われない、そして、人を嫌わない力。
シャイな人間が「自分はだめだ」と卑下してしまうのは、(4)と(1)がないからだろう。ただ、そういう人間に限って、(2)や(3)や(5)を持っている。
企業もそうなのだ。(1)~(5)すべてを同じく要望するのではなく、会社によって5つの力の重視度合いが異なっている。
大メーカーなどは、(2)(3)(5)を重視しており、(1)(4)はそれほどでもない。
だから一見、口下手でシャイな社員が多いのに、「コミュニケーション能力」と言ってしまうのだ。コミュニケーション能力が5つの力だとわかれば、誰でも1つは持っているとほっとできるだろう。
実際の採用場面では、その自分の持つ要素を十分に発揮すればいい。
たとえばグループディスカッションの場合では、こんな方法が考えられる。
(1)はないが(2)はある、という学生は、他の学生の話をよく聞き、うまく彼らを導いていく。そしてときどき、確認やまとめなどをする程度に話すのがよいだろう。
大声で要らない話を長々とする「コミュニケーション力に自信あり」という勘違い学生よりも、よほど企業の心証はよくなるはずだ。
(雇用ジャーナリスト)