前回に続き人工知能(AI)時代の職業教育のあり方について考えていきたい。いわゆる単純作業という部類の仕事は、結局、7~10の異質な作業の集まりであり、しかも物理的なタスクが伴う。ゆえに、それらの自動化には7~10のメカトロニクスが必要となり、そのコストも相当かさむことから機械代替は難しい。
同様に現状のAIは対人折衝もなかなかこなせない。クリエイティブな仕事もあまり強くはない。だから、顧客対応を行う営業や、周囲に気配りするタイプの庶務・秘書、企画系の仕事などもなくならない。ということで、人間の牙城として残される職務領域は大きい。
ではAIで代替されやすい仕事とは何か?
それは、「コンピューターの中で完結し、メカトロニクスもホスピタリティも不要な仕事」となる。その最たるものが事務処理だ。たとえば、請求・支払業務などは現在は、やはり人手が必要となっている。
それは、同じ請求書でもフォームは会社により異なり、そこに使われる言葉も、たとえば「請求額」「お支払額」などと一様ではない。しかもそれらは、郵送・ファクス・PDFなど様々な形態で取り交わされる。だから人間の目でそれを判断して、入力していかなければならない。
ところがAIは、こうした文字情報を読み解き、様々な形態を認知し、例外処理なども自ら学習していくことができる。しかも、この仕事は物理的業務はほぼない。そのため、近いうちにすべてを自動化・機械化していくだろう。
翻訳なども、AIはどんどんうまくなる。世界中の対訳を読みあさり、すごいスピードで上達していくのだ。たとえば飲食店で客が「俺、鮭(さけ)ね」といった場合、過去の翻訳機なら「I am salmon(私は鮭です)」などと笑い話になる誤訳をしたのが、AI翻訳ならすぐに「I order salmon(私は鮭を注文します)」となる。対訳をあれこれ読んでいくうちに、「飲食店で注文時に答えた場合は」という例外規定を自ら学習していくためだ。だから、生半可な翻訳家などはたちまち、AIにかなわないようになる。
そう、AIは煩雑なルールを覚え、運用実務で発生する例外規定や特殊判断なども、自らの学習で理解していく。この機能が高まると、士業の「作業」はほぼAI化する。税理士・会計士・弁理士・弁護士・司法書士・社労士・薬剤師などの仕事は、複雑なルールと特殊判断の連続ではあるが、物理的な行為はほぼない。だから、「作業」の部分はどんどん機械代替されていくことになる。
(雇用ジャーナリスト)