このコラムを通じて世界各国の就職事情について何度か触れてきた。特にフランスと米国に関してかなり詳しく考察したのをご記憶の方もいるだろう。書き足りないのはドイツ、全く扱っていないのは中国だ。しばらくこの2国の状況について展開していきたい。
まず、中国だ。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきたこの国については誤解が多い。今や米国と世界の覇権を競うほどにまで成長した彼の国は、就職についても羽振りの良い話がそこかしこであふれている。米国のトップ大学で人工知能(AI)を研究していた学生を年80万元(約1300万円)で採用したことや、日本の上位大学理系卒を月50万円の初任給で迎え入れている、といったニュースに触れた人も多いだろう。
ついそんな話ばかりに目が行きがちではあるが、一方で、最低賃金ギリギリで働く技能実習生は、今でも中国出身者がベトナムについで2番目に多い。前回まで連載してきた、学費が比較的安価な日本の大学に在籍しながらバイトで生計を立てている留学生についても、中国人が圧倒的に多い。どうしてこんな相いれない現実が並立しているのか。
答えは簡単だ。中国は、確かに国内総生産(GDP)で世界第2位、日本のそれと比べると2.5倍もあるような大国ではある。しかし、人口は日本の11倍もいる。国民1人当たりの富(給与水準)で考えれば、日本人の2割強にすぎない。一国としての強さや、14億人もいる国民のトップ層を見れば「すごい」中国があるが、平均的な大多数の人々はまだまだ「貧しい」のだ。
たとえば経産省の推計などを見ると、中国人のうち先進国レベルの収入がある人は、上位6.6%とほんの少数でしかない。ただ、それでも分母が14億人のために、実数では9300万人にもなる。だから私たちは日本国内のいたるところで、高額消費を楽しむ中国人観光客の姿を目にする。いかに頻繁にそうした人たちに出会うとしても再度いうが、それはたった6.6%の上位層でしかない。
一方、同様に推計にしたがうと、中国では年収165万円未満の人たちが75.3%であり、年収55万円未満の絶対的貧困層は32.6%にもなる。
就職や雇用、キャリアなどの話をするときも、この二重構造を頭に置いてみていかないといけない。そしてたった20年前はGDP比で日本の4分の1にもならなかった国が、ここまで短期間に急成長を遂げたために、至るところにひずみがある。とりわけ、雇用について考えると、それはあまりにも未成熟で脆弱な綱渡り状態と私の目には映る。
(雇用ジャーナリスト)