中国では、米国以上にキャリアアップを求めて若者たちが転職するという。この点について理由を問われたとき、「民族性」という話ですませるのは問題があるだろう。それよりも、歴史的経緯をまず知るべきだ。
中国経済はここ20年で急激に発展した。改革開放路線は鄧小平時代に開始したが、当初それは遅々としたスピードでしか進まず、しかも悪いことに1989年の天安門事件で西側諸国のバッシングを受け、経済発展はここで腰折れする。結果、90年の段階では中国の国内総生産(GDP)は日本の約8分の1しかなかった。同国が年率10%以上の高度経済成長期入りするのは92年のこと。その後、2000年に日本の4分の1、10年に逆転、そして14年に2倍、と猛スピードで経済規模を拡大させてきた。
これは学歴でも同じことがいえる。
もともと、中国では大学の数が少なく定員枠も小さかった。共産党幹部職などを目指す一部の優秀層のみに高等教育は門戸が開かれていたのだ。1990年時点では高等教育進学率はわずか3.4%。その後、徐々に大学進学率は上がり出すが、95年で7.2%、2000年でも12.5%とそのころでも多いとは言えない。だから現在でも、30代後半以上の大卒者は同国には少ないのだ。
こんな歴史的経緯があるから現在の中国経済界は恒常的なミドル人材の供給不足があり、いきおい、若年人材の獲得競争が盛んになる。そうして、あくなき昇給を求めジョブホップする特異な就労環境が現出している。
ちなみに、中国の高等教育進学率は、2005年には20%、12年には30%、15年には40%をも超える。今や大学数は3000校に迫り、学年定員800万人にもなる。
当然、教育インフラの拡充は追い付かず、大学はまさに粗製乱造状態が続いた。教員は門戸を広げ高校教師や大卒の企業人などを専任教員として迎えている。10年前に私が取材した新設大学では、バラック建ての校舎に椅子だけを並べて机のない教室さえあったほどだ。
こうした中で、中国政府は科学水準や学力を上げるために「985工程」や「211工程」と呼ばれる政策を作り、上位約100校に重点特化して教育・研究インフラを拡充させた。ただ、こうしたハイレベル層に限っても、人口の多い中国では、年間数十万人規模となる。だから、ここから生まれる華やかなキャリアの事例は事欠かない。こうした情報が日本のマスコミに取り上げられることで、あたかも中国の一般的なキャリアと思われてしまう。そう、学歴にもこうした二重構造が存在する。
(雇用ジャーナリスト)