昨夏のことだが、中国の日系企業7社を回り、12人の現地採用された中国人の若手社員の話を聞いた。皆、30歳前後で年収150万~200万円程度の人たちだ。
日本のホワイトカラー人材よりはかなり安い年収だが、前々回に引用した経産省報告からすると、中国の同年代の中では上位10~15%程度に入ると思われる。にもかかわらず、彼らは自分たちのことを一様に「一流ではない」と自嘲した。
ちなみに彼らは皆、中国管理科学研究院が指定する上位800大学を卒業している。大学が3000校近くある同国では、かなり良いレベルだ。しかも彼らのうち過半数の7人が日本留学経験あり。年収レンジや卒業大学レベル、留学経験などを加味すれば、彼らは間違いなく、中国の中では優秀層といえる。
なのになぜ彼らは「一流ではない」というのか。それはこんな環境で生きてきたからだ。
彼らの中学・高校時代は、席順も靴箱もみな成績で決まり、常に「1番を目指せ」と教師や親から厳しく尻をたたかれてきたそうだ。40人程度のクラスで、たとえ10位であっても、「1位ではない」という劣等感を植え付けられてしまったという。中国政府による科学水準や学力を上げるための政策「985工程」や「211工程」で指定された約100校を出ていない限りは、二流という思いがあるのだろう。
ちなみに、中国の大学生に人気のある就職先は、まず国営の大手企業が1番で、その次に欧米系の有名企業となる。日系企業は人気も給与もその次にランクされるため、やはり一流ではないという意識が生まれるという。
実際に、大学によりどれくらい給与に差がでるか、初任給を比較した2008年の公的調査がある。それによると大学新卒者の平均を100とした場合、211指定大学卒者は129、最上位の985指定大学卒者は145にもなる。それから10年近くたった現在では、大学生数はさらに2割増え、格差は一段と激しくなっているだろう。
取材した日系企業に勤める彼らは、211や985指定校卒で国有企業大手や欧米系外資企業に勤める超エリートと比べて、年収や生活レベルを卑下する。このあたりが、話をややこしくしてしまう。彼らとて中国では十分「良い生活」をしているのに、それでも「安い」「悪い」とばかり言うのだ。
事情を知らない日本人からすれば、中国の普通レベルはとんでもなく良い生活なのかと錯覚を起こしてしまう。現実にそんなハイソな生活をしているのは、わずか数%の人たちしかいないにもかかわらず、だ。
(雇用ジャーナリスト)