このコラムではここ数回、中国の就労状況を紹介している。中国では、採用されたあと、試用期間中に能力不足や勤怠上の問題が露見した場合、解雇が普通になされるという。対して日本での試用期間は、採用プロセスに何らかの瑕疵(かし)があった場合(たとえば履歴書の虚偽記載など)に契約を取り消すためのものであり、任意に解雇などできない。
試用期間中の解雇規制が比較的緩いといわれる欧州は、その分、解雇保障や再就職支援も整っている。手荒いといわれる米国でも昨今はそこまで簡単に解雇はせず、改善目標(PIPという)を提示し、半年程度の期限を設けて解雇を行う。
そう考えると中国の解雇はあまりにも荒っぽいが、その裏には、それが成り立つだけの社会的な条件があった。
まず、高度経済成長は終わったとはいえ、いまだに年率6%を超える経済拡張が続いていること。とりわけ、脱工業化途上で、ホワイトカラー系の求人は増え続けている。だから、企業は求人難で、すぐに次の働き口が見つかるのだ。
そしてもう一つ。中国では35歳以上のホワイトカラー人材層が極端に薄いという事情がある。前にも触れたが大学進学率はここ20年で急激に伸びた。それ以前は大学進学率は1割にも届かず、しかも、進学者の多くが研究者や教育者、政府関連などの職を選んだため、民間企業就職者が本当に少ない。
こんな社会背景があいまって、そこかしこに若年求人があふれている。結果、解雇されてもすぐまた仕事が見つかる。そこで荒っぽい人事管理がやまないという。
ちなみに、職務や勤務地をあらかじめ限定して雇用契約を結ぶ中国では、会社主導の人事異動などは原則ない。だから、上司や顧客と反りが合わないとき、異動でそれをシャッフルすることが難しい。職務限定雇用の本家である欧米では、そうしたミスマッチ対策として、社内公募などを活用している。
中国の場合ミスマッチ対策は脆弱で、きわめて単純明快な対応をしている。「そうした場合は辞めて次の会社を探せばいい」。若手社員はそう考える。昨夏の取材でインタビューした12人のうち9人がそう答えた。
ただ、次の会社でもまた、ミスマッチが起きる可能性はある。そうすれば、1カ月でクビになってしまう。そんな時はどうするかという質問への答えは「また辞めればいい」だった。
要は、会社としての人事管理は脆弱で、多くを市場に任せるという、米国もびっくりな市場主義だ。社会主義の中国でそれが行われる何とも皮肉な風景だった。
(雇用ジャーナリスト)