中国の就労事情について書いてきたが、このテーマの最後に昇給について触れたい。中国で転職が盛んな背景には、大幅に昇給できるという事情もある。取材をすればすぐに、転職で年収が倍増したという話をよく聞く。ただ、これは少し割り引いて考える必要がある。
彼らは、前職の入社時と転職した今の給与を比較しているのだ。経済成長が続く中国の場合、毎年、基本給の改定(ベア)が1割程度ある。とすると、3年在籍すれば複利で4割近くベアがある。それを差し引けば、転職による昇給はそれほど大きくない。
なのになぜ、昇給を求めて多くの人が会社を変えるのか? そこには人事管理の未熟さがうかがえる。
中国では給与はポストで決まる。つまり、ポジションアップしないとベア以外に大幅な昇給はない。結果、社内でポストが空いていないと、社外で探すのが当たり前になってしまう。
一方日本だと、ポジションが変わらず同じ「ヒラ」でも、能力アップで職能等級が上がる。この昇「級」により、2割以上の給与アップも普通だ。これは、空席があるかないかなど関係ない。だから辞める必要がない。
仮に、中国で転職により3年で給与が倍増したという人がいたとしよう。実際は前職でもベアで4割程度上がっていたはずだ。もし前の企業に日本流の職能等級があり毎年、等級アップで2割強昇給すればベアと合わせて倍増する。これならそのまま継職していたのではないか?
社員に退職された企業は空席の補充に手間がかかる。また、その企業も、じきに上席のポジションが空くが、その時、候補人材がいない。こうした不都合が生じるから、日本は職能等級で人材プールを作っている。
欧米も中国同様にポストで給与は決まる方式だが、辞めてほしくない社員には、役職者が能力を評価するタレントパネルや後継指名など手を変え品を変え、引き留めを行う。ポストでの人事管理を主軸にする中国企業の未熟さとしかいえない。
企業はいまだ高成長で空席はいくらでも生まれる。大学進学率はここ20年で急上昇したため、社会には大卒35歳以上の人材が少ない。そして、毎年700万人もの大学新卒者が社会に供給される。こんな幸せな関係だから、ダメならすぐ首、辞めたい奴はやめろ! で企業も社会も成り立つ。しかし成長はじきに鈍化するし、大卒者の数もここから先は急増していく。
今のままの中国では、数年先に「人事管理の危機」が訪れるだろう。過剰負債や知的財産管理などとともに、人事管理も中国企業の弱点となっていくのではないか。
(雇用ジャーナリスト)