知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】新卒一括採用への批判 職業訓練「欧州に倣え」は幻想 海老原嗣生(2019/9/10付 日本経済新聞 夕刊)(2019/09/17)


 日本型新卒一括採用についてやはり批判は絶えない。その対極で範とされがちなのが欧州の入職システムだ。かの地では職業訓練制度が整っており、この仕組みがあるから入職や職業転換も自由だという。

 ただ、そんな夢のような仕組みがあるにもかかわらず、失業率は日本よりもはるかに高く、雇用の流動性は米国よりもはるかに低い。その理由を書いておこう。結論を言うと欧州の職業訓練システムへの憧憬は、単なる幻想でしかないのだ。

 確かに欧州の場合、職業訓練が初歩のホワイトカラー職務まで広がっていることは素晴らしい。ただ、それは職業訓練校でみっちり技能を指導するのではなく、企業実習が主となる。基本的には、職業訓練校1に対し、企業実習2というあんばいだ。そう、営業や採用、総務などの仕事を訓練校で模擬指導されても、現実的にはうまくいかないのは説明するまでもないだろう。

 企業内での実習は、概略のプログラムはあるが、それがしっかり順守されず、おざなりに雑用を多々任され、そこで腕が磨かれるだけなのだ。フランスの国民教育省アンケートで見ると「CFA(企業実習)中に職業教育を受けなかった割合」は65%にもなっている。ただ、それでもCFAは役に立ったかというアンケートでは93%の修了者が「はい」と答えている。一方、座学の訓練校に対してのそれは43%にとどまる。要は、企業において見よう見まねで実務を任されながら仕事を覚えていくことが、座学よりも役に立つということだろう。

 こうした職業訓練の期間は多くの仕事が2~3年となる。その間の時給は、多くの国が最低賃金の5~7割程度だ。フランスを例にとれば、時給600~900円弱となる。年収でいうと90万~140万円ほどだろう。これを2~3年続けるのは物価高の欧州では厳しい。そのため脱落者も多い。

 そしてもう一つ。これらの職業訓練は、まず企業の訓練生募集に応募し合格することから始まる。えてして企業は伸び盛りな若手を採用しがちだ。現地で聞くと30歳を超えるとほぼ採用されないという。

 こんなことが相まって、欧州では正規の職をあきらめ非正規のまま長年暮らす人が多い。経済協力開発機構(OECD)の資料で見ると男性の25~54歳で見てもドイツが9%、フランスは12%が非正規だ。ちなみに日本の場合非正規雇用が就労者の3割を超えるというが、その内訳は主婦と学生と高齢者で約7割だ。OECDデータにならい25~54歳の男性で日本を見ると非正規割合は10%程度で独仏とほぼ変わらない。

(雇用ジャーナリスト)


     

前のページに戻る