「10年ぶりに大学のキャリアセンターの仕事に戻ってきたら、学生があまりにも素直に人の言うことを信じすぎるので心配になります」。ある大学のキャリアセンターの職員がこう言っていた。素直なことはいい面もあるが、もう少し人を疑ったりする気持ちはないのかと、ひやひやするそうだ。
学生に対し、以前よりも慎重に言葉を選んで「私はこう思うけれど、あなたはどう考えるの」という形で、自分で考えることを促すアドバイスを心がけているという。
前回のこのコラムで個人情報について書いたことにも関連するが、就活という場面は一気に外の社会との接点が増えてくるので、素直だけでは済まないこともある。
例えば、学生は就活になると自分の携帯番号やSNS(交流サイト)などの個人情報を安易に他人に教えてしまう傾向が出てくる。Aさんは就活の合同説明会の会場出口で声をかけられ、言われるがまま、シートに名前や連絡先を記入したところ、後日連絡が来てカフェに呼び出された。そこで「就活セミナー」への入会を勧誘された。「良い人そうだ」と思ったが、親に相談して断ったという。
友だちといっしょだと、またさらに判断が鈍くなる。Bさんは「就活のためになるよ」と友だちに誘われて無料の面接セミナーに参加したが、そこで次の段階という、学生にとっては高額な有料セミナーに勧誘された。その友だちは既にその有料セミナーに入っていた。Bさん自身は無料セミナーで終わりにしたかったが、しつこく次の誘いの電話があり、断り方がわからなくてひたすら「着信拒否」したそうだ。
学生たちの断る手段は、この「着信拒否」や「既読スルー」が多い。それで済めばいいが、それだけでは断れないケースもこれからは出てくるだろう。断り方も学んでいこう。何かを断ると相手は「なぜ断るのか」理由を聞いてくるものだ。
だが、理由がいるだろうか。理由をあれこれ言わなくても、断りたいものは断っていい。断る権利、自由がある。「私には必要ありません」でもいいし「入りたくありません」でもいい。むしろいろいろと理由を並べると、言葉巧みな大人はいちいちそれを論破してくる可能性がある。何かを断るときは、理由をあれこれひねり出すよりも、「いりません」の一点張りの方がかえってすんなりいくことが多いものだ。
ただし、何度も言うが「内定辞退」はこれとは別である。内定をもらった会社への「辞退」は丁寧にすること。「着信拒否」や「既読スルー」では失礼だ。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/