よく訳知りの人が、「欧米では大学と職業がつながっている」などというが、それは大きな間違いだ。そうすると、法学部を出た人は、弁護士か司法関連の仕事につくしかない。政治学科だと政治家になるのか。経済学部はエコノミスト以外、どんな仕事があるのだろう……。そう、欧米でも旧来の形の学部構成の大学だと、卒業後に専攻が生かせる仕事がなくて困ってしまうのは同じだ。
では、「技能を身に付けられる専門大学」に衣替えすればよいのか。この発想のもと、日本でも専門大学構想が一時期騒がれた。ただ、日本にもすでに介護・医療・保育・保健・被服などの技能を教える大学は多いし、その他の技能も、高専・短大・専門学校が控えている。だから、屋上屋になる可能性が高いだろう。
なら大学はどう変わるべきか。その範となるのが、ドイツがつくり上げた専門大学だ。
ここでは確かに技能系の職務教育も行われているが、特筆すべきは、ホワイトカラー系のいわゆる「会社人」教育のシラバス(講義概要)だ。3年制の下で、まず最初の1年は、会社の中で行われている仕事について、座学で学ぶ。営業・経理・人事・総務・企画・広報・宣伝などの実務を、現役実務者が教えるのだ。
こうして6職務程度を座学で学ぶ。次のステップとして学んだ実務の中から2カ月ずつ3職務について企業実習を行う。そして、最後の年では1職務に絞り企業実習を続けながら修了課題を仕上げる。
ホワイトカラー職をここまで学んで、いざ、就職となる。その際の仕事選びは、まず、修了課題にした1職務を中心に探し、それで見つからない場合は、実習を行った3職務に広げ、それでもだめなら座学で学んだ6職務にトライする、という三段戦法だ。これなら仕事探しは容易だし、入職後に「こんなはずじゃなかった」もない。
日本の教育界ではよく「大学を就職の予備校にするな!」という言葉が叫ばれる。ただ、ドイツではまさに「大学は就職の予備校」化しているのだ。
遠い昔、大学は国家経営を担う官僚や研究者、教育者、士業などの養成機関としてつくられた。大学進学率が10%にもならない頃は卒業生の多くはこうした受け皿に就職できただろう。
ところが今は進学率が50%を超えるようになった。その多くは、普通のビジネスパーソンとなる。だとすると、法・経・文・教育などという旧来の学部構成は、もう似つかわしくない。そんな、先進国共通の問題に対して、いち早く答えを出したのがドイツ型専門大学といえるだろう。
(雇用ジャーナリスト)