知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】超高年収新卒採用の課題 エリート選抜の根拠甘く 海老原嗣生(2019/11/26付 日本経済新聞 夕刊)(2019/12/03)


 一部学生を超高年収で新卒採用する風潮について、前回のこのコラムで飲食サービス業のそれを好評価した。対して今回は、ハイテク産業などの人気企業が行う超高年収の新卒採用について、問題点を書いていきたい。

 こうしたエクセレントカンパニーは今でもブランド大学の優秀層を多々採用している。彼らと比べ、超高年収採用者は何が異なるのか。理系であればまだ、専門分野の希少性ということでかろうじて差別化はできるだろう。だが、文系ではその違いは極めてわかりにくい。また、入り口時点のチェックで、果たして入社後にどれだけパフォーマンスを上げるのかもわかりはしない。決め打ちで高年収を払うことで、後々説明できない給与格差を生むことになる。

 まず、こうしたエリート採用の本場、欧米ではそもそもの学業システムが異なる。企業の寄付講座が開講され、そこに企業の実務者が来て実務を教えている。その過程で自社の仕事に似つかわしい優秀者を時間をかけてしっかり選ぶことができる。

 さらにいうと、ブランド校の学生数が極めて少なく、少数精鋭となっている。米国の主要大学、ハーバードやスタンフォード、エール、プリンストンなどは文理合わせて1000人超の定員数だ。同様のフランスの名門グランゼコールは500人程度だろう。

 対して日本は慶応大学が7000人、早稲田大学にいたっては1万人にもなる。これでは「同窓生の中に多数の普通採用者が含まれ、一部のエリート採用者が奇異に見える」ことだろう。

 とりわけ米国のエリート採用は厳しい。リーダーシップ・プログラムという選抜システムがあり、入社後2年間に時限的プロジェクトを多々任され、それを修了した後に本採用となる。その間の脱落率は5割にもなる。ここまでやるから、エリート待遇も成り立つ。

 日本の甘い甘い採用慣行の中に、形だけ欧米要素を取り入れてもうまくはいかない。こうした奇をてらう学生集めは、毎年打ち上げ花火として耳目を集め、しばらくすると消えていく。 雇用関連を見つめてもう30年になるが、いつもながら感じるのは大企業の人事は流行ものに弱いということだ。学歴不問採用、一芸採用、異能人材など一風変わった採用で耳目を集めたケースは多々ある。ただ、そんな小手先の施策は、決して良い結果は残していない。

 ともすると埋もれてしまいがちな人事という仕事をしていると、社内外にアピールできる「斬新」な戦術を打ち上げたくなる気持ちもわかる。ただ、名を残すような仕事をしたいのなら、もっと勉強をし、本質から変える仕組みを作るべきだろう。

(雇用ジャーナリスト)


     

前のページに戻る