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【就活のリアル転載】人材獲得、企業は長期視点で 海老原嗣生(2020/1/14付 日本経済新聞 夕刊)(2020/01/21)


 大学生の新卒採用が売り手市場なのは、少子化とは関係のない、好景気による一時的なものだという話を前回までのコラムで展開した。ここをもう少し詳しく書いておこう。

 実はほんのちょっと前、2010~13年も就職は氷河期であり、就活は買い手市場だった。当時の新卒採用倍率は1.2倍台であり、直近の1.8倍台よりもかなり低い。さらにこれを企業規模別にみると、従業員数1000人以上の大企業は当時が0.6倍前後で、現在の0.7倍台と大差はないが、1000人未満となると当時が1.8倍程度で、現在の3倍強からすると大幅に低い数字となる。この程度に市場は縮むのだ。

 当時も少子高齢化は今とほぼ同じ状況であり、22歳人口は130万~150万人、65歳の人口は200万人以上と大幅な出超で、人口構造的には売り手市場になるはずだった。

 ところが就職氷河期が起きている。それは、リーマン・ショック→ギリシャ・ショック→東日本大震災→円高と続いた不況によるものだ。そう、不況が来れば氷河期は襲来する。昨今のきな臭い国際政治状況を見ていると、来年あたりには就職氷河期が再来する可能性もある。

 そこで、中堅・中小企業の経営者に考えてほしいことがある。不況の時に、思い切って人材を大量確保するのはどうか。採用市場全体が縮小する中では、好況期よりも量・質ともに満足のいく人材を獲得できるはずだ。30年来、雇用を見続けてきたが、伸びた企業は必ずこの手法をとっている。バブル崩壊後の不況では、外資規制がとれた医薬業界やコンビニ大手が若手人材を大量に採用した。

 金融不況の時はよちよち歩きのeコマースベンチャーや人材ビジネスの2番手組が同様の行動をとった。2000年代初頭であればフードやアパレルの新規上場組がそうしている。いずれも今は超大手に育っている企業ばかりだが、その礎は不況期の大量人材確保にある。そう、人材獲得は短期視点ではなく、長期で考えるべきだ。

 「大量に採ってしまって、今度は自社の業績が不調になったらどうするのだ」という疑問を抱く人もいるだろう。その時は、雇用調整助成金の活用をお勧めしたい。これは経営が苦しくなった企業が従業員の雇用を維持するため休業手当などを国が払うものであり、対象者の賃金の3分の2(大企業は2分の1)を年間100日にわたって補てんするという仕組みだ。

 採れるときに人材を確保し、困ったときは雇用調整助成金でしのぐ、というスキームをぜひ視野に入れてほしい。この助成金の存在を知らない経営者が多いのは残念な限りだ。

(雇用ジャーナリスト)


     

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