「内定辞退セット」が世間をお騒がせしている。これは私が内定辞退の仕方のマニュアルを執筆し、便箋・封筒をセットにして監修し、昨年末に販売を開始したものだ。テレビをはじめ、各マスコミからお問い合わせいただき、品薄状態になっているという情報もあるが、大学生協には並んでいるはずだ。
以前からこのコラムやネット媒体などで「内定辞退」については、何度も説明してきたつもりだが、力不足でなかなか周知できない。「内定を出した学生が無断で辞退して、来なかった」「電話に出ない」「メールもスルー」という事態が後を絶たないのが現状である。採用難で困っている企業は多く、その上採用人数が確定できず、四苦八苦している。辞退者を見越して多めに採るのには限度があるし、人数が確保できなければ、再募集をかけなくてはならない。
学生は安易に「自分一人くらいいいだろう」と思うのかもしれないが、採用数が100人規模の企業でも、配属先は既に決まっているものだ。そもそも採用人数はザックリ何人というようないい加減なものではなく、次年度の事業計画に基づき、各部署の必要人数を聞き取り、退職者・休職者を加味して推定して計画している。一人でも足りなくては困るというものだ。
人手不足倒産が問題になっている。ある調査機関によれば、2019年の人手不足倒産件数は185件で前年比20.9%増。4年連続で過去最多件数を更新している。社員の確保に苦労している企業側にとって、学生の無断の辞退についての悩みは大きく、人事部門の課題となっているのだ。
学生本人には連絡がとれないため、その悲鳴は大学の就職担当者にぶつけられる。無断の内定辞退は個人の信用だけでなく、大学の信用も傷つけ、翌年の後輩たちに影響が出る恐れもあるのだ。
では内定辞退をしてはいけないのかというと、そうではない。複数内定をとったことは頑張った証しでもある。早い時期にマナーよく辞退するならばかまわない。学生には職業選択の自由があり、会社を辞めるのが自由なように、内定を辞退するのも自由だ。
こんなセットやマニュアルなどに頼らないのがベストである。自分なりに内定をもらったありがたみをよく考えて、それを断る重みを肝に銘じ、礼を尽くして辞退すればよい。それにはメールだけでは軽すぎる。1人が平均2~3社以上の内定を取る時代。誰もが辞退の連絡を経験するということだ。どんな便箋封筒でもいいが、社会人への第一歩としてメールではなく手紙を出そう。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/