遠からず不況が来る可能性がある。その時は、少子高齢化とはまったく関係なく大卒人材は「人余り」となる。なぜなら、年代人口は30年前より半減しているが、大卒者は進学率の上昇で1.6倍にも増えているからだ。しかも、かつての大卒は男性主流だったが、現在は女性の進学率が高まったため、人材層はそれなりに保たれている。
要は、大卒に限ってみると、「不況が来れば人余りが発生する」のだ。実際、リーマン・ショック後の不況期、人口構造は今と変わらず少子高齢化だったにもかかわらず、ミニ氷河期が訪れている。同様に次回の不況期にも就職ミニ氷河期は来る。こうした話を前回まで展開してきた。さあ、そこで新卒採用に悩んでいる企業に言いたい。
ならば、不況こそチャンスにすべきだ。とりわけ、中堅・中小企業はそこを心してほしい。リクルートワークス研究所の新卒求人倍率をみると、2010年前後には中小企業は2倍を割り込むまで低下した。現在が4倍程度だから相当、採用環境が好転していたといえるだろう。
こうした「不況期」に普段なら採れないレベルの学生を「採りだめ」することを一つの戦略として勧めたい。それができる企業は、当然、体力も将来性もある。実際、過去の不況期には、人気はないが実力のある企業が優秀な人材を一気に確保して、業績を大きくブレークさせた事例が多々ある。
例えば、バブル崩壊後の90年代前半は、外資規制が解かれた医薬・医療系の大手、家電量販店、コンビニ本部などが新卒・若手人材を大量に採用した。90年代末の金融不況期には人材ビジネスの中堅や黎明(れいめい)期のeコマース企業が人集めに成功している。2000年代初頭のITバブル崩壊期には、フードベンチャー、製販一体型アパレルが人材を確保した。
この3つの不況期ではいずれも、積極採用を行った地力のある企業が、その後、大きく業績を伸ばしている。今、経営的に余裕があるが人材採用に悩んでいる企業は、不況期を待って、常識を捨てて大量採用を行うのがよいだろう。
学生や教職関連の読者にも言っておきたい。こうした「実力はあるが人材不足で伸びきれない企業」は、好景気には埋もれてしまいがちだ。だが、不況になると、名ばかりで実力のない企業はボロが出て消えていくので、本物が見えやすくなる。
だから、それをチャンスと思うように頭をチェンジすべきだ。成長して大きくなった後にこうした企業に入っても、うま味は少ない。企業も自分も存分に成長を楽しむような、そんな就職先を見つけるのは案外、不況期の方がよいのだ。
(雇用ジャーナリスト)