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【就活のリアル転載】人員整理、不況でも不要 雇用調整助成金を活用 海老原嗣生(2020/2/18付 日本経済新聞 夕刊)(2020/02/25)


 不況は遠からず来る。もし実力がある企業なのに人が採れずに困っているのなら、こうした不況期に思いっきり人材を確保すべきだ。過去の不況期にはそうして優秀人材を採りだめした企業が、その後、大きく羽ばたいた。前回までにそう書いた。

 ただ、「ここで人を採り過ぎたために、その後、成長が止まって経営が厳しくなったらどうするのだ」と、そんな不安を抱く企業人も多いだろう。そんな心配は無用だ。日本にはとても良い「公的支援」がある。それが、雇用調整助成金だ。

 これは、不況期で企業の業績が下がっている場合、雇用保険から助成金が支払われるという制度だ。人余りで休業を行った場合、その対象者の賃金の3分の2(大企業は2分の1)を助成してもらえる。時期により詳細規定は変化するが、大まかに言って、直近3カ月の売り上げが前年比で1割以上下がっている場合には適用が可能となる。

 ちなみに、制度を申請した初年度は対象労働者ごとに年間100日まで助成がなされる。1人当たりの助成金額の上限は年間約80万円だ。若手社員であれば総人件費の2割程度は補てんができるだろう。

 そう、この制度があれば「不況期で人が余った場合」でも人員整理は不要になる。だから安心して「採れるときに採る」という採用戦略が可能になる。便利な公的支援であり、もっと広く認知を得るべきだろう。

 ところが、この制度は広くは認知されていない。理由は2つある。一つは、制度の担当が自治体ではなく、厚労省の地方局になることにある。県庁や市庁からはあまり積極広報がされていないのだ。結果、大メーカーがあるような地域では、そうした核企業から関連会社や取引先に伝達されてこの制度がよく使われるが、そうではない地域では活用されないという地域差が生まれている。

 もう一つは昨今の政治の流れだ。経済の摂理にしたがい、弱小企業は淘汰され強い企業に人は流れるべきであり、その結果、産業の世代交代が進むという考えから、この制度は敬遠される。ただ、これは2つの意味で間違いだ。

 一つは、この助成金と似た制度は、市場原理主義が色濃い米国にもある。ドイツにもある。どこの国にでも普通にあるものだからだ。

 そしてもう一つ。この制度は利用日数に上限があり、期間も3年しか適用されない。青息吐息のゾンビ企業は3年たったらやはり淘汰される。そうではなくて、健全な企業が一時的に不調な時に、優秀な人材を手放してしまい、その後の成長が続かないような、そうした逸失を防ぐために、重要だと訴えておきたい。

(雇用ジャーナリスト)


     

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