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【就活のリアル転載】人手確保 「買い手市場」事務職で 熟練者は異動、他領域で活用 海老原嗣生(2020/3/3付 日本経済新聞 夕刊)(2020/03/10)


 さて、前回までは、「遠くない将来に来る不況期の採用について」考えてきた。今回は、当面まだ続く好況期に、どうやって人を手当てするかについて、ヒントとなる話をしておこう。

 実は、史上最高の人手不足といわれる中でも、求人職種によって、渇望感には差がある。営業や製造、エンジニアなどはもう、絶望的なほどに人材が足りない。一方で内勤職、とりわけ、事務職やアシスタント職に関しては、それほど採用が難しいとは言えない。

 とりわけ、新卒採用ともなると、女子大や短大を卒業予定の学生たちの事務職志向は強い。一方で企業は一般職事務員の採用を絞っているため、昨今でも買い手市場感が漂う。この温度差を採用戦術に利用するのだ。

 その骨子はいたってシンプルで、以下のようになる。

 長らく内勤だった熟練事務職社員を営業や生産管理などの「人手不足」領域に社内異動させるのだ。そして、空席となった事務職のポジションで新卒採用を行う。こうすることで、本来なら営業や生産管理を募集しなければならなかったところが事務職の新規採用で済む。求人職種転換がなされたといえる。

 「長年、事務職になじんだ人を、営業や生産管理に行かせることなど無理だろう」。こんな声が聞こえてきそうだが、実際、私はこれを進めている会社を少なからず知っている。

 まず、事務職で請求や納品、支払いなどを管理していたスタッフは、顧客や商品、製造工程などについて、かなりよく知っている。基礎知識についてはバッチリだ。あとは本人の「気持ち」の問題だろう。そこをクリアできた企業は、ある面、「運」があった。

 例えば、社長が亡くなり、事務担当だった妻がそのあとを継いだ。もしくは、離婚で実家に帰った社長の娘が、事業に携わるようになった。そうして彼女たちが営業や生産管理でバリバリ働けることで、「事務出身の人でも問題なく働ける」という説得材料ができたことが一つ目の勝因。

 のみならず、もう一つのポイントがある。彼女らは、「女性や未経験者が嫌がる」という企業の風習を自らの体験をもとに、徹底的に変えていった。さらにもう一つ、本業にいきなり入るのは厳しいが、初心者でも取り組みやすい仕事を作ったことだ。例えば、ビルメンテナンスの会社では、いきなりそこに行くのは厳しい。まずリフォームコンサルティング事業を立ち上げ、そこを介して内勤から営業への道をつくった。

 こうして内勤から営業に人が異動でき、結果、新規採用は内勤事務職で事足りる体制となっている。

(雇用ジャーナリスト)


     

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