前回まで、製造・販売・サービス系の人材は恒久的な人手不足に陥るということを書いてきた。昨今のコロナ不況で短期的にそれが緩和されるかもしれないが、直後の回復期にはすぐに不足感が高まるだろう。
こうした中で、どうやって戦力を整えていくのか。実は、採用に頼らないもう一つの途があるのだ。それが「M&A(合併・買収)」だ。こうした言葉を聞くと大手企業が新たな産業や地域に進出するために行うもの、と考えがちだ。
しかし、昨今は中小企業、しかも同業同地域などで頻繁にそれが行われている。人材確保や土地・設備不足といった従来的な経営課題をM&Aで解決しているのだ。その裏には、こんな事情もある。
中小企業経営者が一番多い年代は65~69歳で平均的な引退年齢は70歳。2025年までに経営者が70歳になる企業は245万社もあり、後継者が決まっていない企業は127万社にも及ぶ(17年経産省報告)。
さらに驚くのは廃業予定企業の30.6%が「経営環境は良い」と答えているのだ。彼らには廃業と売却という2つの選択肢がある。ただし廃業の場合は現有資産の売却に手間取るし、社員の生活保障や契約先との取引中止など様々なネックもある。対して会社ごとの売却ならこうした難題は少なくなる。だから売却を選ぶ企業が増えている。
つまり、現在はこうした優良企業が簡単にM&Aできる絶好機といえるだろう。こうした状況を見越して経産省は中小企業のM&Aを支援する補助金も拡充させている。条件はつくが最大1200万円もの補助金が獲得できるケースもあるという。
「でもM&Aなんて慣れていないし、プロに相談すると金がかかりそうで」と二の足を踏む人も多いだろう。そうした心配を解消するために、各都道府県に「事業引継ぎ支援センター」が置かれ、そこでは無料で相談もでき、売却予定の候補企業も見ることができる。
さらに言うと、地銀なども昨今は地域でのM&A専門サービスを行っているところが多い。彼らも融資先が廃業してしまうのは困るから、売却先を探しているのだ。こうした地銀の紹介にはことのほか優良案件が多いという。その理由は簡単だ。不良企業の仲介などした場合、当然、融資が回収できなくなるので、そういう案件は紹介を控えるからだ。彼らは長年、融資を通して企業経営をよく見てきたから、そこらのコンサルよりもよほど内情をよく知っている。
こうしたサービスを利用してカレーレストランや石材店など街中の企業がM&Aをするのを目の当たりにしてきた。戦力を整える大きな武器になる。
(雇用ジャーナリスト)