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【就活のリアル転載】就活環境、来年は悪化の恐れ 「氷河期」ほどは落ち込まず 海老原嗣生(2020/4/28付 日本経済新聞 夕刊)(2020/05/12)


 前回コラムでは、「今年の就活では採用枠は多少減るが、激減ではない。普通に戻る程度のことだ」と書いた。安心した人も多かっただろう。ただし、来年の就活に関しては今年より悪化するものになるはずだ。それは、リーマン・ショック後の状況に似るだろう。

 少し数字を追ってみよう。新卒求人倍率で見ると、リーマン直前のピークが2.14倍であり、その後のボトムでは1.23倍まで数字を落とした。著しい下落ではあるが、1990年代の氷河期である96年入社(1.08倍)や2000年入社(0.99倍)よりは高い。

 同じような傾向はたとえば就職者数でも氷河期には30万人まで落ち込んだが、リーマン後のボトムでは33万人程度で持ちこたえていることが学校基本調査よりうかがえる。

 採用企業の顔触れという意味で、大企業に採用された数を見てみると、氷河期時代は8万人を割るレベルだったものが、リーマン後は11万人程度となっている。

 つまり、どの数字を見ても、リーマン後は90年代から2000年の氷河期世代ほどは落ち込んでいないのだ。

 その理由はいくつか挙げられる。たとえば、30~50歳世代の採用がそれほど多くないので、余剰人員が少ないこと。55~65歳世代の採用が多かったので、定年退職者が多いことなど人員構成的なものと並んでもう一つ、氷河期の採用絞り込みがその後の企業体力低下につながったことへの反省があるからだ。たとえば、90年代中盤はメーカー、後半は銀行、2000年前後は総合商社が新卒採用を大幅に絞りこみ、ゼロという大手企業さえまま見られた。

 その結果、直前に入社した新卒採用者は、長い間後輩がいないという環境で育つことになる。当然、後輩への指導や支援の経験がなく、また、組織の最年少者として、時には過保護に、時には雑用係として、ようは半人前の扱いを長らく受けた。そうして彼らが30代になった時、実力不足を問われるという問題が各所で起きたのだ。その反省から、企業は不況期でも採用を絞りこみ過ぎないようになった。

 ここまでを理解して就活を組み立ててほしい。体感的には好況期はいくらでも有名企業に入れて、不況になると就職自体が難しいと感じるかもしれないが、それは間違いだ。

 好況期には確かに、自分の実力よりも一つ格上の企業に入れる。そして不況期には志望ランクを一つ下げねばならない。ただそれは、いずれも通常期よりも多少上下するだけだ。天国から地獄に急降下するわけではない。そこを忘れないでほしい。

(雇用ジャーナリスト)


     

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