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【就活のリアル転載】不況期こそ有望企業探せる 輝く業界、10年後不人気も 海老原嗣生(2020/5/19付 日本経済新聞 夕刊)(2020/05/26)


 不況期の採用をテーマにしてきたが、今回は就職人気ランキング100位に入るような憧れの企業の採用数について触れておきたい。

 就職四季報には大手・人気企業の新卒採用数が書かれている。無回答の企業が4割ほどあるので、判明している6割の企業からの推計となるが、そこからわかるのは、人気100社の新卒採用数は不況期で1万3000人、通常期で2万人弱、好況期で3万人強となっている。好景気ならだれでも入れる、不況だと誰も入れない、というわけではないことがわかるだろう。

 とはいえ、昨年なら3万人も入れたのが、今年の就活では2万人程度、来年さらにもう幾分か減ると考えられる。「たった1年の違いなのに何でこんな差が」と悲観せず、逆に良い機会だと考えてほしい。その理由は、人気企業に入れたとしても、決して安泰でも幸せでもないからだ。人気があるとは、その時点で輝いている企業であるわけで、同時に伸び切った会社ということも多い。おみくじでも、「大吉よりも中吉の方がよい」とよく聞くではないか。

 たとえば、1950年代の大卒人気ランキングでは、一番人気は俗に「3白」といわれた。これは、砂糖、紙、セメント業界のことだ。その後は、石炭産業、造船業、鉄鋼業などに人気が移っている。それから40年たった2000年時点では、もちろん1社も人気企業には残っていない。

 私がワークスという人事関連雑誌の編集長をしていたころ、1970~90年までの人気ランキング上位10社が5年後、10年後に再びランクインしていたかどうかを調べたことがある。その結果は、5年後は52%、10年後だと28%しか残存していなかった。中には人気1位となっていたのに、整理に追い込まれた企業さえある。変遷を見ると面白いもので、今や人気企業の常連ともいえるテレビ局や広告代理店も60年代は上位に顔を見せないし、総合商社や銀行さえ一時、不人気だった。

 逆に就職氷河期に、まだ野のものとも山のものともわからなかったeコマース企業や検索エンジン、サイバー広告代理店などに入った学生たちは、今では時代の寵児として、大いに幅をきかせていたりもする。

 そんなものなのだ。しょせん、人気ランキングなど社会に出てもいない学生が選んだ「見栄え投票」でしかない。就職売り手市場だと、下手に人気企業が近くに見えて振り切りづらいが、不景気だからこそ、そんな中身のない数字に左右されず、明日の有望企業を探すことができる。そう考えて、前向きに不況期の就活を楽しんでほしいところだ。

(雇用ジャーナリスト)


     

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