「ウェブ面接の途中で『立ち上がってみてください』と言われました。これってハラスメントじゃないでしょうか?」。就活を終えた女子学生がそう聞いてきた。
予期せぬ指示だったが、一応その場で立ち上がったそうだ。後ろがすぐに壁で、それ以上後方に下がることはできず、画面には腰から上しか映らずに顔は切れた。パソコンの位置を調整するなど、ドタバタして気まずい感じで終わったそうだ。それが理由ではないだろうが、その会社とは縁がなく、「何の目的だったのか」と後から聞くこともできず、ずっと頭に引っかかっているという。
1次・2次面接を急きょウェブ面接に変更せざるを得ない会社が多かった今年、会社側も学生側も不慣れで、試行錯誤が続いた。そんな中、このような「ウェブハラスメント」と思えるような事例が発生している。他にも「会社側が複数でひそひそ話をしていて、こちらの答えを嘲笑しているような会話が聞こえて嫌だった」という報告もある。
そもそも「職業安定法」には「応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定してはならない」と定められている。これはウェブ面接でも同じである。
パソコンで受ける面接でことさら「全身を映してください」と言うのは、ハラスメントにあたるであろう。ハラスメントという言葉は「いやがらせ」と解釈されるが、採用の場面では法律違反に相当する場合も多い。
今年はいわゆる「パワハラ防止法」が強化され、職場内でのハラスメントには各社十分に配慮し努力していると思われる。これらのハラスメントは、職場内だけでなく、取引先や採用選考中の学生、インターンシップ生にも適用されるものだ。しかも加害者の個人の問題では済まされず、適切な対応をとらないでいると組織全体がそれに「加担した」という責も問われかねない。
だが、いまだに採用に関するハラスメント対策は万全とはいえない。2019年度の文部科学省の調査によれば、採用活動においてセクハラなどの行為を防止するために対策をしたかという質問に対して「行っていない」と回答した会社が68.5%、「行った」は28.1%にとどまっている。
ウェブ面接での質問の工夫の仕方はいろいろある。最終面接までウェブで行った広告代理店は事前に自分の大学時代の活動を物語る写真を3枚送らせて、それについて話を聞いたそうだ。今年は各社ウェブへの移行に必死だったわけだが、そこに新たなハラスメントが発生しないよう、対策を進めてほしい。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/