前回に続き、就職みらい研究所の就職白書をもとに、データで就活のリアルをたどる。今回は、昨年までの売り手市場とはどんなものだったか、を見ていくことにする。
まずは、一番売り手市場の状況がよくわかる新卒求人倍率に着目する。2020年卒者の就活時期のそれは1.83であり、前年の1.88とならび、ここ10年間のピークを記録していた。採用数に対して学生数が足りない状況を示しているため、採用数が予定よりも不足する企業が続出していることが分かる。
なんと、予定数が充足していない企業の割合は全体の53.4%と過半数を記録。ちなみに、就職みらい研究所の調査は個人事業主や中小企業などの割合が低いため、世の中全体の数字よりは、ややよいものになる。にもかかわらず、過半数が未充足となったのだ。
単年では売り手状況がわかりづらいので、17年卒と20年卒を比較してみてみよう。
まず、面接数を比較する。採用人数100に対して、企業が実施した面接人数は、17年卒が839.3、20年卒は602.1。企業側は面接をしようにもなかなか学生が集められない状況がわかるだろう。
続いて内定を出した人数だが、17年卒の165.8に対して20年卒は175.0。学生側は複数内定して辞退する可能性が高いから内定を多めに出しているのがわかる。実際、辞退人数を見ると、17年卒の74.1から20年卒は83.1と増えている。
結果、20年卒は面接少なく内定多いという流れとなり、平均3.4件の面接で1件内定が出ている。17年卒の面接5件で1件の内定に比べると相当、楽な就活だったのがわかる。
これを学生側からも見てみよう。まず学生が就職ナビ上で気に入った企業にプレエントリーする数だが、17年卒38社に対し20年卒は25社に減少。セミナー参加回数は10.5回が7.9回、面接した会社数は15社から11社に減っている。どの段階をとっても3割程度、活動が少なくてすんでいるのがわかる。まさに売り手市場といえる。
17年卒の新卒倍率は1.72で、20年卒の1.83と0.1程度しか違わないのに、この違いだ。コロナ不況で来年の新卒倍率はリーマン・ショック後と同様の1.3程度になるだろう。学生の活動数は大幅に上げなければならないのは必定だ。
今春このコラムで「今回の不況では、就職氷河期世代のようなひどい状況にはならないだろう」とは書いた。氷河期の頃は新卒倍率が1前後まで落ち込んだのだ。そこまでにはならないだろうが、ここ2~3年のような気分で油断してかかったら大変なことになる。
(雇用ジャーナリスト)