コロナ禍で就職氷河期の再来が危惧されている。そうした中で、効果が乏しいと思われる動きが再び起きていることに注意喚起したい。
たとえば、先日、厚労相、文科相、一億総活躍相が経済団体首脳と、卒業後3年以内の既卒者を新卒扱いとすることを話し合ったことが話題となった。
すでにリーマン・ショック後の大不況時、当時の民主党政権が呼びかけ、今回と全く同じ動きがあった。その後、経済同友会が「既卒3年新卒扱い」を提言に盛り込み、大きな流れとなった。ソニーやトヨタなど名だたる企業も既卒3年新卒扱いを実施してきた。だが、それほど大きな効果は出ていないようだ。少し長くなるが振り返ってみよう。
就職氷河期でも就職できた学生は30万人ほどいる。その前後の景気回復期と比べると1~2割の減少だ。一方、従業員数1000人以上の大企業の大学新卒採用数を雇用動向調査で調べると、バブル最盛期に約15万だったのが、氷河期では約8万人と半分にまで減っている。
つまり、好景気と氷河期の採用規模の違いは、大企業でみると半減となっているが、全体では1~2割減のレベルということだ。氷河期だと、大企業が欲しがるような優秀な学生は、第1志望は無理でも、第2志望・第3志望あたりには受かっているのだ。逆に言うと、すべて落ちるくらいだと、好況期になっても第1志望に受かるのは難しいだろう。
だから、私は学生から、「今年はあきらめて来年を狙います」と言われたときは、「今年、ある程度の企業に一つも受からないのに、景気回復したら第1志望に入れるなんてことはないよ」と伝えている。
さて、第1志望は落ちたが、第2・第3志望に受かったという学生は、2年後に好景気になったとしても、もうかつての第1志望企業を受けなおすことはほとんどない。まず、2年も遅れてまた新人からやり直すのが嫌という気持ち。2つ目は、入社した会社に知り合いもでき仕事も覚えた中で、今さらという気持ちになる。
さらに、社会をよく知ると、かつての第1志望企業についても甘い夢を捨て、現実は大差ないことを知ったりする。そんなことが理由だろう。
結果、優秀層の応募はなく、不合格者が累々となる。だから大企業はこれが何の意味も持たないことを知っている。お付き合い程度に「既卒OK」と書いているのだろう。
逆に、「既卒3年大丈夫だから」と学生が就活に本腰を入れてかからず、すぐ諦める悪い風潮のみがまん延してしまう。そのことが一番の問題なのだ。
(雇用ジャーナリスト)