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【就活のリアル転載】新卒採用解禁のルール 危うい企業任せ、失敗例も 海老原嗣生(2020/12/15付 日本経済新聞 夕刊)(2020/12/22)


 企業の採用協定に準じる就職解禁日について、こちらも「私企業の経済活動なのだから、市場ルールに任せるべきだ」という意見が、経営者や一部の研究者などから出ることがある。これは、現実を知らない意見といえる。

 実際、1997年に就職協定が廃止され、2002年に倫理憲章が強化されるまでのおおよそ5年間(実際は6年間)、ルールがほぼない状態だったことがある。文字通りの自由化だ。その結果、新卒採用はどうなっていったか?

 当時、関西にある大手電機メーカーが、2年生終了時の春休みに長期のインターンシップを実施し、そこから採用を行うという広報を行った。このメーカーは、「面接だけで採用を決めるのはよくない」と80年代からインターンシップに力を入れ、本気で日本型就職慣行を是正しようと考えていた気骨のある会社だ。

 ただ、ふたを開けると、日本型就職慣行はさらに悪い方向に流れた。まず、関西の大手企業の多くが、「負けてはならじ」と2年終了時採用に動き、そこにクレジットカード会社や一部流通系などそれほど採用力がない大手企業が続く。そうすると「早期採用」を売りにしていた外資は、さらに輪をかけて採用を前倒しして、2年冬で内定を出すということになったのだ。これでは、学業阻害、いや、学業破壊だ。

 それでも採用活動がうまくいくなら企業には文句はないだろうが、現実は惨憺(さんたん)たるものだった。まず、2年次に内定を出して、その後、2年間もフォローし続ける労力の大きさ。商社や自動車などの「ゆっくり採用」企業に多数の内定者を引き抜かれ、歩留まりは下がる一方だった。また、2年もすると景況にも変化があり、採用予定数に過不足が表れる。ひどい時には、業績不振で人員整理を考える場合もある。そんなときに新卒採用者が入社すればおかしなことになるだろう。

 こうした問題が多発し、あくせくするなかで、倫理憲章による解禁ルールの再設定は、まさに企業にとって福音でもあったのだ。市場に任せるべきだという向きは、こんな歴史を知らないのだろう。

 当時は、商社や銀行が冬の時代で、就職戦線では小さな存在だった。現在なら彼らも第一線に加わるから、混乱は計り知れないものになるだろう。

 そもそも、就活とは企業と大学という2つの世界のぶつかり合いだ。こうした価値観が全く異なる2つの世界を「市場原理」に任せても、見えざる手による調和などは起こるべくもない。こんな話が再度出ないことを祈っている。

(雇用ジャーナリスト)


     

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