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【就活のリアル転載】社会は常識に先行 「人が苦手」に新たな受け皿 海老原嗣生(2021/4/20付 日本経済新聞 夕刊)(2021/04/27)


 前回、就業構造基本調査をもとに、就活氷河期の卒業時進路未定者たちが、その後どうなったか、をデータで示した。それによれば、2000年卒者の場合、卒業後1年以上たって正社員となった人が実に8万4700人もいることがわかった。

 ただ、それでも悩ましい問題がある。この年の進路未決定者は14万3716人(学校基本調査)だった。とすると、いまだに一度も正社員になれていない人が6万人近くもいることになる。その中には、結婚して専業主婦となった人や、独立して自営業を営む人もいるだろうが、それでも数万人は「進路未決定」状態にあるはずだ。この問題をどう考えるべきか。

 世の中には、人との付き合いが苦手な人がけっこういる。ところが現代社会は多くの仕事が人との関わりを必要とする。当然、適応できない人が出てくる。だから俗に引きこもりと呼ばれる人たちが生まれるのだ。

 かつてもそういう人は社会にいたはずだ。ただし、そのころは人と接さずに済む仕事が多々あった。農林水産業、製造業、建設業はもちろんそうだし、飲食・サービスでも自営なら人付き合いは少なくて済む。そこかしこにそういう仕事があったから、引きこもりがちな子供がいたとしても、「叔父さんとこの工場で働く」などの選択肢が用意できたのだ。

 労働力調査で調べると、1990年から2010年の20年間に、農林水産業は約200万人、製造・建設業は約420万人、自営業は約620万人も就業人口が減っている。それだけ受け皿が減ったのだから、引きこもりが増えた理由もおのずとわかるだろう。

 ただ、社会とは面白いもので、行きつくところまでいくと逆に振れる。飲食店を見ても、たとえば完全に間仕切りされてできた料理を出すときだけ窓が開く、などというラーメン店がはやっている。直近では、注文から受け取りまで一切会話が不要なネット完結型ハンバーガーショップも大人気だ。昨今では、ウーバーイーツや物流配送員など、人と話さずに済む半自営的な仕事も増えてきた。

 そうした人にまで年金や社会保障のカバー範囲を広げ、安定して暮らせるようにすれば、それでいいのではないか。ともすれば、大人たちは「正社員になり、結婚もしないとだめだ」と、普通になれと、言いがちだ。ただ社会はそうした常識より先に進んでいる。

 対人接触無しの飲食店が人気となり、芸人としてプロダクションをクビになった女性がユーチューバーとして人気を誇る。「常識外れ」は正すのではなく、個性として評価する時代がそこまで来ているのではないか。

(雇用ジャーナリスト)


     

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