世界中の人を笑顔にしたい」「食卓に笑顔を届けたい」。学生が志望動機の冒頭によく書いてくる文章だ。年に最低でも100枚はエントリーシートの添削をするが、今年は特にこのフレーズが多かった気がする。
どこかのサイトに例文があり、コピペしているのかもしれない。マスク生活で笑顔の少ない年だったことも拍車をかけているのか。だが、要因の一つは恐らく、前回書いたように、大学の就職指導がオンライン化で行き渡っていないことにある。学生たちは職業観を深め、それをどう伝えるかというところまで到達していないのであろう。
「人を笑顔にしたい」という理想は間違ってはいないし、むしろ崇高といえる。だがそれを就職試験のエントリーシートに書いたり、面接で話したりすると、社会人からは「だから?それで?」と突っ込みどころ満載になる。話をすると学生自身も「確かにふわふわしていますよね」と納得してくれる。
志望動機については、この欄で再三検証してきた。学生の捉え方のズレが大きいと感じる項目の筆頭にあげられる質問だ。勘違いは大別して3点ある。
第1に「志望動機」は会社のキャッチフレーズを考える項目ではない。「食卓に笑顔を」などは食品メーカーの広告コピーのようで、大きく出すぎだ。会社をあげて取り組むことで、一人の学生には荷が重すぎるだろう。ホームページの丸写しとも思える。企業理念に共感するだけでは相手に響かない。
第2に、あまりにも抽象的だ。具体的に何がしたいのかまで落とし込むのに字数も時間もかかりすぎる。笑顔にする対象もプロセスも漠然としている。個人が目の前の相手を笑顔にするのと違い、組織として取り組むには、仕組みづくりも含めて相当手間がかかる。少なくとも、まず個人で何ができるのかに引き付ける必要がある。
第3に、どんな会社にも当てはめることができ、なぜその会社でなくてはならないのかがわかりづらい。どんなモノやサービスで、どうやって顧客に届けるか。学生には、その企業でやりたいこと、やれること、やれるようになりたいことを具体的に考えてほしい。
確かに「動機」は「きっかけ」という意味でもある。企業の方も「志望理由」としてくれれば少しは誤解が減る気もするが、いずれにせよ採用活動で求められているのは、企業に興味を持ったきっかけなどではない。
どんな仕事でも働いていれば、社会貢献などを通じて「笑顔をつくる」チャンスは少なからずある。ただあくまで、その笑顔は具体的な仕事の先にあるということを肝に銘じたい。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/