「私は転勤したくなかったから地方銀行を選んだ」。社会人20年生の男性が就活を翌年に控えた大学生に向け、持論を展開する場に居合わせたことがある。就活生を支援するために開かれたOBOG座談会でのことである。私はキャリアコンサルタントの専門家として出席していた。
彼は「大手企業に入るのは全国、海外に転勤するということ。海外赴任になると何年も海外が続き、10年以上日本に住めない人もいる」と強調。「私は生まれ故郷でずっと家族と住めてよかったと思っている。就活ではワークライフバランスもしっかり考えるべきだ」と結論づけていた。
地銀以外にも、保険会社や商社など様々な業種の先輩たちが登壇した。商社勤務の人からは海外駐在の体験談も出たのだが、後のグループセッションでは複数の学生から「やっぱり私も日本から出たくないし、できれば東京に住み続けたい」「ワークライフバランスは大切ですよね」といった発言が聞かれた。
先輩の顔を立てた「その場限りの同調組」もいたかもしれないが、最近の学生の内向き志向、国内志向の根強さを実感した。一方で、社会人の何気ない言動が学生の考え方に大きく影響を与えてしまうのでは、と改めて考えさせられた。
職業柄、就活生向けの会合を主催する機会も多い。自分の意見を押しつけないのはもちろんだが、特定の登壇者の意見が学生に影響を与えすぎないよう、バランスのとれた運営がいかに重要か。キャリアコンサルタントとしての仕事を見直す機会にもなった。
大学生は予想以上に社会性がない。判断力に乏しく、安易に人の意見を受け入れがちだ。人は易(やす)きに流れる。就職なんか何とかなる的な意見をまことしやかに言われるのは本当に困る。アルバイト先を決めるように手近なところに入って後悔する学生もいる。就活を侮り、つまずいてしまい、活動自体を放棄してしまう学生もいる。
我々大人が未来ある学生と接する際には、よくよく気を付けなくてはならない。自分の考えや体験、価値観を話すのは構わないが、それはあくまで一つの見方にすぎないということを話す側も忘れてはならない。
就活において、どんな人に出会って影響を受けるのか、それも一つの縁だ。コロナ禍で学生は物理的にも心理的にも、ますます内向きになってしまいがちだが、できるだけ良縁につながるよう、多くの人に出会ってほしい。様々な意見を聞いたうえで取捨選択し、自分の考えを固めていく。身をもって多様性の大切さを学べる絶好の機会になるはずだ。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/